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統括編集長インタビュー

“PL責任”を背負い、修羅場を経験しているか?普遍の価値を生むマーケターを目指すなら通るべき関門

経営を志すか、専門手法を究めるか

押久保:西口さんの本の最後に少し書かれていた話ですね。

西口:そうです。大失敗したからこそ、すべて放り出して退職もできないじゃないですか。だから本当に息も絶え絶えになりながら、次にいただいた機会はそれまでの理屈や思い込みを捨てて臨んだら、少し光が見えた。それで、まだ学ぶことがあると思い直したんです。

西口氏初の単著『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』書籍の後半では、大失敗し挫折したことについても触れられている。
発売後たちまち増刷がかかった西口氏初の単著
たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング
の後半でも、大失敗し挫折したことについて触れている

 もうひとつ励みになったのは、ラフリー氏の前の経営者、ジョン・ペッパー氏の講演で聞いた言葉です。「自分は一度も失敗したことがない。なぜなら、失敗から学んで次の成功を絶対につかむからだ」と。

押久保:失敗をそのままにしない限り、“失敗”で終わらない。

西口:そう、それを聞いたときは、霧が晴れたような救われた気持ちになりましたね。あのときあの言葉を聞けなかったら、仕事人生を生き抜けなかったと思う。それ以降は、失敗してもそこから学べばいいと思えるようになりました。

押久保:お話をうかがっていて、やはりPLという責任と裁量を持つから、学びが大きく視野が広がるのだと確信しました。ただ、冒頭でも上がったように、PLを持つブランドマネージャーばかりではないし、今マーケターとして仕事をしている人のほとんどはその経験がないと思います。そうしたマーケターは今後どのようにキャリアアップしていけばいいでしょうか?

西口:マーケターの行き先は、経営者もしくは経営陣を目指すか、それとも専門家になるか、の大きく2つの道があると思います。まず前者なら、絶対に早めにPL経験の修羅場を経験したほうがいい。もし自社内にそのキャリアパスがなくても、担当するブランドのPLはわかるはずだから、自主的に分析して疑似PLをにらみながら仕事をすることはできるはずです。

自分の仕事はAIに代替されない価値があるか

押久保:なるほど。少なくともデジタル領域に限れば、売上や利益の推移はわかりますね。

西口:そうですよね。それか、ベンチャーに転職する。僕もベンチャー企業に来て思うんですが、ベンチャー企業の創業者の思考は完全にブランドマネージャーと同じです。小さい組織の中で、創業者の近くで仕事をすると、PLへの強烈なコミットメントを学べるはずです。今は資金調達がとても容易になっているので、自分で起業するのもいいですね。

 もうひとつの専門家になるというのは、マーケティングの“HOW”、手法のいずれかを究めて事業会社の支援側になる道です。……ただ、あらゆる領域でAIによる自動化が進む時代なので、今後も機械に代替されない領域はどこなのか、未知数ですね。

押久保:確かに。ネット広告の運用も、マーケティングオートメーションも、かつては代理店や専門事業者にノウハウがあったのに、どんどん置き換わっていますね。

西口:コピーやビジュアルなどのクリエイティブも、おそらく商品をストレートにコミュニケーションして売る目的ならば、アルゴリズム化できてしまうと思うんですよね。だからもし今、マーケティングの“HOW”に携わっていてその道で行くというのなら、自分の仕事の中で絶対にアルゴリズム化できない部分があるのか、書き出して熟考したほうがいいと思います。

“摩擦の解消”をデジタルが担う今

押久保:確かに、今は専門職で代替されなくても、数年後はわからないという状況ですよね。

西口:そうですよね。少し話が大きくなりますが、僕は「あらゆる仕事は“摩擦”をなくすところに生まれる」と思っているんですね。移動したいけど物理的な距離があるとか、欲しい情報があるけど手に入らないとか、この作業を代わりにやってほしい、とか。

 そうした摩擦や障壁に対して「タクシーをどうぞ」「専門書をどうぞ」「代行しますよ」といった形で、誰かが対価と引き換えにモノやサービスを提供してきたわけです。

押久保:なるほど。物理的移動はともかく、その他の部分は様々なサービスの登場で、かなり摩擦や障壁がなくなっていますね。

西口:まさにデジタルによって、ですよね。1990年の新人マーケター一年目に、僕は調査会社から2ヵ月月ごとに送られる電話帳みたいな太い小売店調査データ報告書を分析するために、報告書からPCに手入力していたんですよ。そのスピードはかなり速かったので、自分のスキルかと思っていました。

 そんな無駄なこと、今では考えられません。デジタルの浸透で、既存の“摩擦を解消する仕事”がどんどん消えている、すなわち仕事がなくなっています。今後のキャリアを考える上では、マーケターに限らず、その点を注視することは不可欠です。

 この数年の変化は本当にすさまじく、もはや毎月加速しています。そのスピードとAIへの代替を前提に、経営も支援側も、機械では発想できない「点と点をつないで新たな価値を作る」ことを志向する必要があるでしょう。まさにスティーブ・ジョブズが言っていた“Connecting The Dots”ですね。世の中の潮流をよく把握して、キャリアプランを描いていってもらえればと思います。

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この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長

立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集部...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/06/14 08:00 https://markezine.jp/article/detail/31198

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