常に実力+αのハードルが目の前に
押久保:P&Gでは、ブランドマネージャーの上にはどのような役職があるのですか?

西口:最初は既存商品を担当、それから日本初上陸の商品や新商品を担当して経験を積んだ後は、アソシエイトマーケティングディレクター、さらにマーケティングディレクターという複数ブランドを見る立場になります。キャリアの浅いブランドマネージャーの育成にも携わります。
その上には、ジェネラルマネージャーという役職があります。マーケティングディレクターからジェネラルマネージャーへの間はかなり飛躍があり、単に事業を伸ばすだけでなく、組織構築と人材開発の能力も相当問われていました。米国本社などとのグローバルコミュニケーション、また外部企業との渉外交渉も必要になってきます。
押久保:ブランドマネージャーのスキルセットは、どう設定されていたんですか?
西口:僕がいた当時は、リーダーシップ、コミュニケーション、シンキング(思考力)の大きく3つの観点がありました。P&Gは他の事業会社と比べて、内部での人材育成にすごく力を入れていると思います。前述のようにキャリアアップしていくと、部下の育成も求められます。
教育プログラムとは別に、実務での育成も絶妙で、いつも自分の実力を少し超えたハードルを設けられていました。それを超えると、また次のチャレンジが待っている。常に走っていた感じでしたが、だから成長できたと思います。
押久保:ちなみに、尊敬するブランドマネージャーやマーケターの方はいらっしゃいますか?
西口:日本人初のP&Gジャパン社長、さらにアジア出身者初のP&G米国本社のアジア担当プレジデントを務められた桐山一憲(はつのり)さんですね。
マーケティングと営業の両方のご経験がある桐山さんは、まず視野がとても広い。相当数のプロジェクトを担当しながら、その細部で誰がどう動いているか、またステークホルダーとの関係や状況まで把握されていました。やると言ったことは絶対に完遂し、僕らにも同様のコミットメントを求められたので、まさにその背中で教えていただいたと思っています。
また、ゼロから1を生み出すアントレプレナーとしては、ロート製薬の山田邦雄会長にたくさん勉強させていただきました。僕の「N=1」の考え方のルーツは、山田さんにありますね。
PLを預かるのに必要な責任感と精神力
押久保:では、ブランドマネージャーに限らず「売上・利益の責任を持つ」にあたって、絶対に必要な資質を西口さんはどうお考えですか?
西口:第一に、責任感です。もちろん仕事に対する責任感は皆が持っていると思いますが、やはり担っている裁量が大きいので「自分がやらないとダメなんだ」という、奮い立たせるような思い込みは必要だと思います。
その一方で、どこか楽観視できる精神力、最後は自分を許せるマインドも欠かせません。それがないと、どこかでプツッと糸が切れてしまう。Burnoutといいますが、燃え尽きてしまうんですね。もちろん、はじめから強い人ばかりではないし、皆ブランドマネージャーの仕事をしながら強くなっていったと思います。ただ、僕はどちらかというとシリアスに思い詰めるところがあったので、つらいときもありました。
押久保:そうだったんですね。そんなご自身を、どう変えたんですか?
西口:変えられたか……というと、そうでもなくて。逃げられなかったというのが正しいですね。ブランドマネージャーになって3年目に担当した新商品で、完璧だと思ったのに、ものすごい失敗をしてしまったんです。伝説の経営者のA.G.ラフリー氏の肝煎り商品で、全世界の注目の的だったのに。……いまだにこの話をすると、顔が硬直しますね。