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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

ロングセラーブランドが成長するために対応すべき3つの課題

新興勢力への対抗は既存ブランドとの距離感を測る

 3つ目の課題に対する対策は、別ブランドかサブブランドで立ち向かうという二択です。別ブランドのほうが既存イメージの蓄積がない分、新しいイメージを獲得しやすいのですが、ゼロからの認知獲得や店頭の棚の確保にかなりのコストがかかります。どちらが適しているかは、新興勢力と自社の既存ブランドの距離感によって変わります。

 わかりやすい例でいうと、「リポビタンD」などの栄養ドリンク市場に近年、海外から突然「レッドブル」や「モンスターエナジー」などが登場し、既存ブランドが獲得できていない若年潜在ユーザーの支持を集めました。これらは、中身は既存の栄養ドリンクと類似していても、打ち出し方がまったく異なり、マイナスをゼロに回復するのではなく、「今よりもっとテンションを上げる」というゼロからプラスにする価値を強調していました。

 そこで大正製薬は、同様のコンセプトの「RAIZIN」を発売して対抗しました。発売当初はライジンジャパンという別会社で展開しており、大正製薬の名前は出ていませんでした。それは、同商品で獲得したいユーザーには社名のイメージがむしろ足を引っ張るからだと推測できます。ユーザーにとって、大正製薬や「リポビタンD」と、海外系エナジードリンクとは距離がありすぎて、「リポビタンD」のサブブランドではユーザーに響かないと判断されたのでしょう。

 あらかじめ決めていたのか、路線変更かはわかりませんが、今では発売元は大正製薬となっています。もし社名や「リポビタンD」を冠していたら、海外系エナジードリンクと同じカテゴリーの商品と認識されにくかったと思います。

 新興勢力にサブブランドで対抗した例は、「スターバックスリザーブロースタリー」が挙げられます。2010年代に“コーヒーのサードウェーブ”として登場した「ブルーボトルコーヒー」などに対抗するサブブランドでした。

 さかのぼると1962年創業の老舗・ドトールコーヒーは1996年のスターバックス日本進出を受け、1999年に別ブランドのエクセルシオールカフェを立てて対抗しています。

 それまでカテゴリー内で勝っていたブランドが、新しい価値によって浸食された際、そのポジショニングに似せたブランドを立てるのは鉄板の防衛術です。

変えることと変えないことを見極める

 以上が、ロングセラーブランドが岐路に立たされた際の選択肢です。このうち別ブランドやサブブランドを立ち上げるのではなく、コアブランドのポジショニングを見直したり(リポジショニング)ターゲット像を改めたりしてブランドを刷新する、リブランディングについて深掘りします。

 リブランディングの定義も複数あるかと思いますが、冒頭で解説した「ブランド=消費者の頭の中にある価値認識」を前提とすると、それを変えることがリブランディングです。平たくいうと「ブランドAといえば〇〇」と想起されていたものを「ブランドAといえば△△」と、異なる知覚価値に変えていくことです。

 たとえば、「109といえばギャル」と思われていたのを、もう少し大人向けのファッションも扱っていると認識を改めてもらうのは、109の大きなリブランディングです。

 ただし、リブランディングには必ず、既存ユーザーの離反というリスクがともないます。そこで大事になるのは、「変えることと変えないことの見極め」です。リブランディングで判断に迷う論点は、この部分の見極めです。

 まず、プロダクト自体を変えるのかどうか、という観点があります。プロダクトが古びている場合は、それをリニューアルすることが必要です。特に食品・飲料の場合、大きな論点は「味」です。習慣化している消費財にロングセラーブランドが多いと述べましたが、特に食品や飲料は味に慣れており、慣れた味をおいしいと感じるため、消費者にわかる形ではっきりと味を変えてそれを打ち出すのはかなりのチャレンジです。

 一方、習慣というよりはセンスや流行で売れ行きが変わるコスメなどの雑貨類は、時代性を帯びるので、時代に合わせたプロダクト刷新が随時必要になってきます。

 プロダクトやサービスそのもの以外に変える要素としては、プロモーション、ユーザーイメージ、チャネル、価格などがあります。たとえばドラッグストアの棚を見ていれば、ノンシリコンシャンプーの次に植物ボタニカル系の商品がヒットしたので、ボタニカル系のコンセプトを既存ブランドに付加した商品も増えています。

大事なのはコアブランドへの投資

 では、ロングセラーブランドが生き残るために必要なこととはなんでしょうか。それは、ブランドのコアの部分にしっかり投資して、ファンにとっての価値を磨き続けることだと考えています。

 私はよく「ブランドビジネスのPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)」という言い方をします。PL上は当然、多くの人が買ってくれるほうがインパクトも出ますが、その人たちが買うのは「ブランドに価値を感じるから」という理由も大きいです。

 ブランドは大事な資産なので、その資産が今どうなっているのかに配慮せずに目先のPLばかり追いかけて、過度な値引きや一貫性を欠いた施策を増やすと、ブランド資産が目減りし、結果的に売上もついてこない事態に陥ります。

 長く続くブランドは、今期投資して今期のリターンが見込めなくても、長期的な視点でコアのブランドアセットの維持に努めています。長期と短期の投資バランスに関する議論は合意形成が難しいので、その点では鶴の一声で決められるオーナー企業にロングセラーブランドが多く見られるのだと推察できます。

 最後に少しだけ、程度の差はありますが、ロングセラーブランドに欠かせない「時代性をどう取り入れるか」についても触れたいと思います。先のPLとBSにも関連しますが、経営とクリエイティブを分離し、顧客から見えないファイナンスや生産、流通は経営側で徹底的に効率化して利益をひねり出しつつ、クリエイティブは時代に即して柔軟にセンスをアップデートしていく、という方法があります。これで奏功しているのが、LVMHです。ルイ・ヴィトンを筆頭に、各ファッションブランドにそのクリエイティブを統括するクリエイティブディレクター(CD)を置き、定期的に交代することで時代性を失う事態を避けています。

 経営のガバナンスの観点から、時代性を取り入れる仕組みとしてクリエイティブを分離し、顧客に伺いを立てるのではなくCDの個性と感性で時代を捉え、顧客を啓蒙していくのです。俯瞰すると、雑誌の編集長の仕組みもこれに近く、編集長の個性でそのカラーが変わります。自動車メーカーのデザインヘッドが交代していくのも、同様です。いずれも、それまでのブランドの“らしさ”に、時代性を掛け合わせてセンスをアップデートし、ブランドの鮮度を維持しています。このほうが、時代性やセンスの比重が高いビジネスでは長続きする経営レベルの仕組みと言えるでしょう。

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この記事の著者

山口 義宏(ヤマグチ ヨシヒロ)

インサイトフォース株式会社 代表取締役
メーカーで戦略コンサルティング事業の事業部長、コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームのインサイトフォースを設立。BtoC~BtoB問わず企業/事業/商品・サービス...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/06/25 13:15 https://markezine.jp/article/detail/31340

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