営業部門のデータ活用が最重要、その理由は?

全社横断でのデータ活用に関して、毛利氏は特に営業部門のスキル強化を重視している。その背景には、商品が顧客に届くまでに問屋や食品卸、コンビニやスーパーといった様々なステークホルダーを介するというBtoBtoC企業の業界構造がある。
ステークホルダーそれぞれに事情がある中でエバラの商品を選んでもらうためには、良い商品を出すことはもちろん、関係者のニーズを把握し、説得力のある営業をすることが大切になる。その過程において、データが強い武器になるというわけだ。
日々ステークホルダーと接しているのは、現場の営業パーソンだ。わずか20~30分間の商談で、その先2~3ヵ月間の売り上げが決まってしまうこともある。
「たとえば卸店様から『こういうデータはありませんか?』とご要望をいただいたときに迅速に対応できると、信頼を得られますよね。その信頼の積み重ねが、売り上げにつながるのではないかと思っています。
他社と似たようなデータを使っていても、分析の視点やわかりやすさ、説得力の面で差をつけることはできるはずです。他社の営業パーソンに負けないようにするためのスキルを、マーケティング部門から営業部門に提供していきたいと考えています」(毛利氏)
全職種向けにマーケ&データの基礎講座を実施

他部門へのスキル提供の取り組みの代表例が、毛利氏がカリキュラムの作成と講師を務める社内マーケティングセミナーだ。全国各地から職種にこだわらず若手層を集め、月に1回、1日4時間、マーケティングやデータに関する講義を実施。去年は50人、今年は30人が参加している。
毛利氏がそこで教えるのはフレームワークや専門知識ではなく、「戦略的思考」「マーケティング的思考」だという。
「たとえば、売り上げを102%に、という目標が与えられたとき、その数字を達成するためには何人に買ってもらえば良いのか、見当をつけられることが大切です。テレビCMが必要な規模かもしれないし、試食販売だけで達成できる規模かもしれない。『限られたリソースを配分するために、その実態を正しく掴む』というスキルを身につけてもらいます」(毛利氏)
受講者たちは他にも、エバラの商品を例に、顧客のインサイトや商品の強み・ベネフィットについて学び、さらに統計・データに関する基礎知識の習得や、エクセルの分析機能を用いた演習にも取り組むという。
「一番効くのはFace to Face」全国各地で講習会も
さらに毛利氏は年2回、全国各地の支店に足を運び、様々な部署の社員たちを対象にTableau(タブロー)などを用いたデータ分析の講習会を実施している。多くのマーケターが抱える営業部門との連携に関する問題について、毛利氏は「マーケティング側から営業の現場に飛び込んでいくことが大切」と述べる。
「私が講習会でやっているのは、たとえば現地のデータを使って『こんなことができるんですよ』と具体的に示すことや、BIツールやエクセルの分析機能を使うことで、バイヤーへの提案書がどのように変わるのかを見せていくことです。
『なんだよ今さらデータ分析なんて』という反応があってもいい。『いやいや、けっこうこれが、いいんですよ』と、その場で実践してみると、『これはいいね』『すぐ企画書に貼れたりするの?』『ちょっと触ってみようかな』という声が返ってくるようになります」(毛利氏)
毛利氏は、「デジタルっぽくないのですが」と前置きしながらも、「一番効くのはFace to Faceでやっていくことです」と強調する。確かにレクチャー動画などを用意すれば、学習の効率は向上するかもしれない。しかし片道2時間かけてクライアントのところに通っている営業部門の社員が、それを見て勉強する時間を確保するのは厳しい。マーケティング部門側が時間を確保して、現場のデータを使って見せることで、社員たちの姿勢も変化していくという。