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定期誌『MarkeZine』特集

投資なくして成長なし?サブスクリプションKPI設計の基本

成功しているサブスクリプション事例

 多くのメディアで「2015年がサブスクリプション元年」と言われています。この年に私たちZuora日本法人が立ち上がったのですが、実はこの年には他に、日本のサブスクリプションサービス市場においてエポックメイキングとなる出来事が起こっているのです。それがApple MusicとNetflixの日本上陸です。この2つのサービスにより、サブスクリプションという用語は急速に世の中に浸透しました。サブスクリプションが本格展開してからまだ4年ほどですが、「CDやDVDをわざわざ店舗までレンタルしに行く生活にはもう戻れない」という人も多いはずです。そして、サブスクリプションが消費者に受け入れられている現状を受け、今やあらゆる業界がこの新規ビジネスへの参入を始めています。

 たとえば米Fordは、自動車メーカーからの脱却を目指し、2016年から新しいモビリティサービス「FordPass」を展開しています。これは自宅を出てから帰るまでのすべてのモビリティをサービス化するというもので、Ford車がレンタルできるだけでなく、駐車場の予約や短距離移動用の自転車シェアまで、移動に関する様々なサービスをスマートフォンアプリで享受することができます。

 ギターメーカー「Fender」の取り組みもユニークです。同社は、顧客の大半がギター購入後にその難しさから途中で投げ出してしまうことから、顧客と長期的な関係性を築けず、その後の販売機会につながらないという課題を抱えていました。そこで、サブスクリプション形態でトレーニング動画の配信サービスを始めたところ、練習途中でギブアップする確率が大幅に減少したそうです。この取り組みはギター業界全体を盛り上げることになったと同時に、もう1つ大きな成果を得ることができました。それは「ユーザーと直接つながることができた」ということです。これまで同社は楽器ディーラーを通じて製品を提供していましたが、サブスクリプションにより顧客と直接接点を持つことができるようになったのです。動画は、初心者から上級者まで様々なレベルのものを用意しており、音楽ジャンルも多彩なので、ユーザーの音楽の好みや習熟度を把握できるようになりました。

 もう1つ注目されているサブスクリプションサービスに英国企業の「graze」があります。これは一箱を4つのボックスに区切ったパッケージに、低カロリーな健康志向スナック菓子を4種類詰めて送ってくれる定期購入サービスになります。同サービスの強みは、ユーザーからの評価・感想を徹底的に分析し、ユーザーの嗜好を判断した上で、好みに合うスナックを選定して送ること。そして、分析した結果を基に、わざと少しだけ外した味のスナックも同封することです。これにより、ユーザーは毎回「新たな好みを発見できる」という楽しみを得ることができるのです。このちょっとした工夫により、1ヵ月に1度の配送が2週間に1度、1週間に1度……と、頻度を上げてグレードアップするユーザーが多いそうです。

サブスクリプションの本質は「顧客とつながること」

 以上の例から、サブスクリプションの本質は「顧客と直接つながること」という事実が見えてきます。自動車メーカーも、従来のように車を売って終わりではなく、モビリティサービスに移行、直接顧客とつながることで、ユーザーの行動パターンやニーズを把握できるようになり、その成果を将来の自動車やサービス開発へと活かすことができるようになります。つまりサブスクリプションとは「顧客とつながることで、常に変化し続ける顧客ニーズに応えられるようになり、自社のサービスを常に進化させ続け、顧客に1日でも長く使い続けていただきながら安定した収益につなげることができる」というビジネスモデルなのです。これがプロダクト販売モデルとの最大の違いです。

 顧客のニーズは変化し続けるものですが、プロダクト販売モデルでは、その一瞬のニーズをとらえ、それに応える完璧な製品を開発・販売し、販売数を伸ばしていくことがミッションでした。数を伸ばすには販売網の拡大が必須なので、チャネルを通じて拡販していかなくてはなりません。その結果、顧客の顔が見えなくなったわけです(図表1左)。

図表1 「プロダクト販売モデル」と「サブスクリプションモデル」の比較
図表1 「プロダクト販売モデル」と「サブスクリプションモデル」の比較
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 これに対しサブスクリプションでは、顧客ニーズの変化に応じて製品機能やサービス自体も変化し続ける、いわば“永遠のベータ版”を提供するモデルです。永遠に変化し続けるからこそ、ニーズが変わる顧客と長期的な関係を結び、安定した収益を得ることができるのです。このモデルでは顧客であるサブスクライバーを中心に据え、そのニーズの変化を把握しながら、サービスや機能、時には価格体系も変えながら、ユーザーに良い体験を提供していきます(図表1右)。

 米GEは「ソフトウェアの会社に変わらないと生き残れない」と、デジタルを核にしたビジネス変革、すなわちデジタルトランスフォーメーションを行いました。国内でいえば、ソニーも「サブスクリプションにシフトし、利益の質を改善したい」ということで、PlayStationNowというサブスクリプションを提供しています。他にも多くの製造業がビジネスモデルシフトを志向しており、ここ数年以内にサブスクリプションを始める国内製造業が増えていくと考えられます。

サブスクリプションは成長を前提にしたモデル

 顧客と直につながる、変化するニーズに対応し自らも変化し続ける、それによって安定した収益を得る――こうしたサブスクリプションの本質を考えると、単なる月額課金やリースビジネスとは考え方がまったく異なることがわかります。

 図表2は、プロダクト販売とサブスクリプションにおける、収益モデルの違いを表した図です。

図表2 「プロダクト販売」と「サブスクリプション」における収益モデルの違い
図表2 「プロダクト販売」と「サブスクリプション」における収益モデルの違い
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 従来のプロダクト販売モデルでは、1月分の売上計上が終わると、2月はゼロから積み上げなくてはなりませんでした。モノが売れていた時代なら、対前月比、対前年比で売上を伸ばしていくこともできたでしょうが、今はゼロベースで成長を続けることはほぼ不可能です。これに対しサブスクリプション型のモデルでは、1月で確保している売上に、2月で確保した売上を乗せていく仕組みになっています。いわば成長を前提にしたモデルです。

 サブスクリプションは、安定した収益基盤の上に次の売上が積み上がるので、未来にどれだけ売上があるかが把握できます。毎月ゼロベースで営業を開始し、売上金額を足していく従来型は、翌月にならないと当月の売上額がわかりません。つまり売上は過去の数字なのです。未来に向けて数字を積み上げるサブスクリプションとはまったく性質が異なります。

 またサブスクリプションの場合、年月が経てば経つほど売上が右肩上がりになるモデルです。そのため、ユーザーと長期的な関係を構築する、つまりユーザーのLTVを伸ばしていくことが成功のポイントになります。従来型であれば、数の論理で「ユーザー数を増やす」ことが重視されますが、サブスクリプションの場合、販売数が絶対ではないのです。

 「プロダクト販売モデル」から「サブスクリプションモデル」へとビジネスを変革していくためには、図表3に示すように、マーケティングであれば、ブランディングだけでなくエクスペリエンスも、セールスであれば製品よりも価値訴求、ファイナンスであれば1ユニットの利益よりも顧客のLTV、「ヒット作を作ればいい」というカルチャーから、「長期的なリレーションシップの強化」へと、それぞれ変えていく必要があります。

図表3 「サブスクリプションモデル」におけるビジネスの役割
図表3 「サブスクリプションモデル」におけるビジネスの役割
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サブスクリプションのKPI設計

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この記事の著者

桑野 順一郎(クワノ ジュンイチロウ)

Zuora Japan株式会社 代表取締役社長
外資系IT企業でマネジメントを歴任した後、キリバ・ジャパンをはじめとする多くの外資系IT企業で代表として日本ビジネスの立ち上げに従事。2015年2月、米Zuora社の日本進出にともない、日本法人の社長に就任。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

竹内 尚志(タケウチ タカシ)

Zuora Japan株式会社 セールスコンサルティングディレクター

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:38 https://markezine.jp/article/detail/31576

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