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投資なくして成長なし?サブスクリプションKPI設計の基本

サブスクリプションのKPI設計

 前項で、「プロダクト販売モデル」と「サブスクリプションモデル」では「売上」1つを取っても、それが過去の集計なのか、現在の売上を積み上げて未来を測るものなのか、それぞれ異なるという話をしました。そのため、従来の会計ルールに則って売上数字や投資額を見ても、自社のサービスがどのように成長しているかはわかりません。言い換えれば、ビジネスの成長を測る指標(KPI)がまったく異なるのです。サブスクリプションを進める上で、ここが最も難しいところです。そこで以下では、サブスクリプション・ビジネスの経営判断に役立つ基本的な考え方を説明していきます。

 サブスクリプションの基本的なビジネスモデルは、継続的な収益ベースを拡大することにあります。それは、将来にわたり毎年繰り返し発生する収益=ARR(Annual Recurring Revenue/年間定期収益)を拡大することに焦点を当てます。ARRの毎年の変化は次の式で表すことができます。

ARRn(期首の年間定期収益)−Churn+ACV=ARRn+1(翌期首の年間定期収益)

図表4 ARRの方程式
図表4 ARRの方程式
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 期首時点の既存のサブスクリプション契約を通じて、将来にわたり毎年繰り返し発生する1年分の売上ARRから、解約やダウングレード、更新しないといったことにより、将来発生しなくなってしまうARR「Churn(チャーン)」を引き、そこに新たに獲得したサブスクリプション契約やアップグレードにより増加するARR「ACV(Annual Contract Value/年間契約金額)」を足すことで、次年度のベースとなるARRを算出できます。

 具体的に例を挙げると、ARRn(期首のARR)が100万円で、Churnが10万円、ACVが30万円であれば、ARRn+1(翌期首のARR)は120万円となります。ARRn+1、つまり式の右辺が、最左のARRnよりも増えていれば、そのサブスクリプション・ビジネスは「成長している」ことになります。

 サブスクリプション・ビジネスを成長させる、すなわち、ARRn+1(右辺)を増やすには、Churnを減らすか、ACVを増やせば良いわけです。そのために、既存顧客とのリレーションシップを強化するためにカスタマーサクセスチームへの投資や、顧客のニーズに応じるために研究開発に費用を注ぎ込みます。

 そうした諸々のコストのベースとなるのがARRです。「ARRがすべてを左右する」と言っても過言ではありません。

図表5 収益拡大にはチャーンを減らす、またはACVを増やす必要がある
図表5 収益拡大にはチャーンを減らす、またはACVを増やす必要がある
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従来の財務諸表ではサブスクリプションに対応できない

 ところがこれを従来の財務諸表で表そうとすると、図表6のとおりサブスクリプションの成長を見るには無理が生じます。

図表6 従来の財務諸表ではサブスクリプションに対応できない
図表6 従来の財務諸表ではサブスクリプションに対応できない
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 これまで説明したとおり、従来の財務諸表は「過去の数字」を集計しているため、未来の収益(ARRn+1)は見えないからです。また、サブスクリプションの収益のように繰り返し発生する収益と、ソフトウェアの導入支援費など1回だけの収益の区別ができません。同様にデータセンター費用のようにサービスを維持するために繰り返し発生する費用と、販促費のように1回だけの費用も区別ができません。このように、従来のプロダクト販売モデルによる収益や費用と、サブスクリプションモデルによる収益や費用が合算されてしまうため、従来の財務諸表だけを見ていてもサブスクリプション・ビジネスの実態が把握できないのです。

 図表6の損益計算書では、営業利益は200円ほど出ていますが、もし、翌期首のARRが減少していたとすると、いくら今期利益を上げても「サブスクリプション・ビジネスが成長している」とは言えないのです。

次のページ
サブスクリプション会計による経営戦略の立て方

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この記事の著者

桑野 順一郎(クワノ ジュンイチロウ)

Zuora Japan株式会社 代表取締役社長
外資系IT企業でマネジメントを歴任した後、キリバ・ジャパンをはじめとする多くの外資系IT企業で代表として日本ビジネスの立ち上げに従事。2015年2月、米Zuora社の日本進出にともない、日本法人の社長に就任。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

竹内 尚志(タケウチ タカシ)

Zuora Japan株式会社 セールスコンサルティングディレクター

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:38 https://markezine.jp/article/detail/31576

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