サブスクリプション会計による経営戦略の立て方
Zuoraでは、ARRn−Churn+ACV=ARRn+1の式を掘り下げ、図表7のようなサブスクリプション・エコノミーのための新しい損益計算書を考えました。

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ここでは、期首のARRからスタートし、チャーンを差し引いて正味年間定期収益(NetARR)を計算しています。そこから、サブスクリプションのARRを維持するためにかかるコスト(売上原価や一般管理費、研究開発費などの定期コスト)を差し引いて、定期利益(RecurringProfit)を出しています。定期利益は、定期的な収益と定期的なコストとの差になりますので、ビジネスの収益性を表しています。図表7では、定期利益は400円となっています。
この定期利益の400円は、今期の利益とすることもできますし、ARRを成長させるための未来に向けた投資のベースとすることもできます。特に成長期にあるビジネスにおいては、この400円を単純に利益として計上するよりも、将来への投資を行ってARRを増やすことを考えます。定期利益の範囲であれば、投資額を最大化してもブレークイーブン(損益分岐点)と考えることができます。つまり定期利益を確認し、将来への投資の判断ができるわけです。
ここで、成長効率指標(GEI:Growth Efficiency Index)が重要になります。GEIは、新規のARR(ACV)を獲得するのにかかるコストの比率です。たとえば100円の新規ARRを生むために100円のコストが必要なのであれば、GEIは1.0ですし、150円必要ならGEIは1.5になります。図表8では、GEIを1.0で計算していますので、100円投資すれば新規ARRは100円、400円投資すれば新規ARRは400円獲得することができます。

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GEIは、ビジネス環境や自社の特性によって変動するので、自社の実績を継続的に調査しなくてはなりません。
サブスクリプションの成長のために、【1】チャーン(Churn)、【2】定期利益(RecurringProfit)、【3】成長効率指標(GEI)の3つの指標を定期的に見るべきです。そして、ARRn+1を戦略的に増やし、利益を刈り取る時期になったら、十分に大きくなった定期利益をベースに営業利益を出すことができるようになります。
サブスクリプションはビジネスの原点回帰
最後に少々堅い話をしましたが、サブスクリプションの考え方は、決して難しいものではありません。むしろ、従来のビジネスからの原点回帰と言ってもいいでしょう。なぜなら、かつては自分で製品を作り、顧客を訪ねて営業していたスタイルが、拡大路線とともにチャネル販売網を広げるようになり、現在のように「顧客が見えない」状態になったからです。
こうした視点で見ると、サブスクリプションは、「顧客と直につながるビジネスの原点モデルである」と言えるのではないでしょうか。かつてと異なるのは、そのつながりがテクノロジーによって密接になっていること。これがまさにデジタルトランスフォーメーションなのです。今後多くの企業が、サブスクリプションの本質を理解し、成長していくことを願ってやみません。