DXに大胆に舵を切った三陽商会の意図
仲里:三陽商会は、中期経営計画の中で2018年10月に「Future Sanyo Vision」という新ビジョンを掲げ、組織改革やデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に取り組まれていますよね。特に、2019年度はDXに注力し、前期費1.5倍の15億円を投資すると発表されています。このような大規模な改革に至った経緯、背景にある課題感を伺えますか?
安藤:当社では、5年ほど前からオムニチャネルの推進とEC強化を進めてきました。ただ、「売上を伸ばすこと」に議論が集中してしまうことが多く、売るための仕組みばかり考えてしまっていたんです。そうではなく、バリューチェーンに関わるすべての領域を最適化していかなければいけないと改めて感じました。
花輪:あわせて、実際に店舗にはどのようなお客様が来店され、どのような行動をしているのかという、これまで感覚値でしかわからなかった情報を可視化していく必要があると考えました。こういった情報をデータ化することができれば、議論が主観的にならず、建設的な意見を交わしやすくなります。
安藤:また会社としては、「データの活用と業務の効率化」も進めていく必要がありました。そのためにも、デジタルの活用は必須だったんです。
仲里:それらを実現するために、15億円の投資が必要だったと。
安藤:そうですね。15億円という金額も、最低限必要な金額として予算化しているだけで、大規模とは捉えていません。今回の投資で効果が見えれば、追加投資もあり得ると考えています。
DXを通して三陽商会が実現したい顧客体験
仲里:DXを通して、三陽商会が実現したい顧客体験とはどのようなものなのでしょうか。
安藤:すべてのチャネルがシームレスにつながり、お客様がそのときの状況に合わせて自由に使い分けができる状態を実現したいと思います。また、お客様が欲しい情報を適切なタイミングで受け取れるような仕組みも構築したいと考えています。
安藤:当社のように複数ブランドを所有しているアパレルの場合、総合モール型の自社ECか、ブランドごとにECを切り出すかのどちらかになるケースが多いのですが、当社は自社モール型の「SANYO iStore」と、個別ブランドのECサイトのどちらも保有しています。これは、お客様のニーズや状況に合わせて好きなほうを利用いただけることを想定しているからです。
花輪:実店舗に例えるとわかりやすいと思いますが、ショッピングモールでいろんなブランドを見て回りたいときもあれば、好きなブランドの路面店でじっくり商品を選びたいときもありますよね。
また当社ではシームレスな顧客体験を実現するため、実店舗とECの連携を強化しています。2015年の段階でECと実店舗の会員IDの統合は完了しており、独自の会員制度は、百貨店の店舗でも利用が可能になっています。