信頼性が求められる時代 紙媒体には追い風
――なるほど。一つ目の、老舗メディアだからこその資産を活かすという点について、詳しくうかがえますか?
老舗のメディアは、歴史あるアーカイブはもちろん、情報を扱うノウハウなどたくさんの資産を有しています。一方でネットが普及し、取材から行う「一次情報生成メディア」の他に、情報の伝達や流通だけを担う「配信専門メディア」も広く浸透しました。その流れの中で、紙をベースにしたメディアは、配信媒体が紙からスクリーンになったときのビジネスモデルを確立しきれないままここまできてしまった……という現状があります。
ただ、逆にスクリーンで一次情報を提供するマネタイズを考案できれば、前述の資産の力を梃子に、デジタル発のメディアとは違う価値を提供できる可能性があります。
きちんと取材をして優良な情報に仕上げるのは、それなりのコストがかかります。その割に、配信専門メディアと連携しても先方のPVにばかり跳ね返る、という苦い状況が新聞にはしばらく続いていました。
それが今、風向きが変わりつつあると思っています。というのは、奇しくも前述のWELQ問題を機に、ごく一般の方々の情報の信ぴょう性や信頼性を問う意識が底上げされたからです。先日立ち上がったJIMA(インターネットメディア協会)に、MarkeZineを運営する翔泳社も理事として入られていますが、これもそうした流れを受けてのことですよね?``――はい、まさに。インターネットメディアがごく一般の方々に普及したからこそ、メディアの側には一層の責任があると考えています。
そのとおりで、ネットはフェイクニュースの温床にもなってしまう。今改めて「責任ある情報提供」が求められる時代に回帰しています。それは、新聞には追い風です。
顧客と直接つながる仕組みの確立が急務
――昨年から外部の立場でお手伝いされていたとのことですが、江端さんのような方をCDOに迎えるには、経営陣にそれ相応の危機感がないと難しいのではと感じます。

そうですね。1年近く経営陣と接し、社内の意識調査も行う中で、市場や世の中を鑑みて危機感があるのはわかりましたし、意欲や土壌は十分にあると感じました。ただ、歴史ある企業が資産を活かしつつデジタル化するには、外部コネクションも有する推進役がいたほうがいい。その役割を社内から選ぶのはなかなか難しかったので、デジタル関連の統括とそれ以外も柔軟に戦略を立てる、CDO兼特任執行役員という立場に就きました。4月に新設したDX(デジタルトランスフォーメーション)本部の本部長とともに、またその下に位置するマーケティングCX(カスタマーエクスペリエンス)部とも連携を図って、全社のデジタル化を進めます。
――今年の5月に正式に参画されてからまだ数ヵ月なので、実際の施策はこれからかと思いますが、具体的な構想についてうかがえますか?
たとえば過去の取材記事の閲覧や、会員制度を設けてコンテンツ別に課金する、などでしょうか。
方向性としては今おっしゃったことは重視しています。最初の話にも通じますが、膨大な資産がありながら、それをWeb上で皆さんが閲覧できるような形にはなっていません。東京五輪を来年に控えて、過去の大会の記事にも関心が高まっていますが、それを外部から見られる仕組みがまだないのです。デジタル化は進めているものの、社内活用に留まっているので、これを一般の方にも提供できるようなインフラを構築できないか検討しています。
会員制度に関しては、言い換えるとこれは「直接つながる手段」だと思うんですね。ご存知のとおり、新聞はこれまで全国の販売店を通じた流通が中心でしたし、駅やコンビニでの販売も我々本社が顧客情報を把握することはできません。一方でWebメディアは、簡単にといったら語弊があるかもしれませんが、読者の会員制度を持ちやすい。スポニチでも、直接顧客とつながる仕組みの確立は急務だと思っています。