ブランドへの共感を生むポイントは“情報量”
――ここからは、クリエイティブ制作を担当されたBBDO J WESTの眞鍋さんにもおうかがいします。今回の動画でこだわった点について教えて下さい。
眞鍋:密度の濃いコンテンツにすることを強く意識しました。ストーリーや登場人物を細かく設定してリアリティをもたせ、高校生の共感を呼ぶような作りにしています。セリフや映像の随所に、小さなネタもたくさん仕込んでいますよ。

――具体的には?
眞鍋:登場人物たちのセリフや設定もそうですが、オカルト好きの学生が出てくるシーンは、部屋の中に置いてある雑誌や小物、彼が着ているTシャツの柄まで、こだわりました。

小笠原:私は工学部の6学科の学生たちが、MAGROBOを操縦するシーンのセリフが大好きで。「エンジン始動! ERA-COCUNE(エラコキューン)正常起動!」「電子通信指令システムHONET(ホーネット)、接続完了!」など、遊び心があって良いですよね。
――と言いますと……?
眞鍋:すべてマグロにかけてます。エラコキューンは「えら呼吸」から連想しましたし、マグロには骨があるから、全身を動かす通信システムはホーネットという名前にしようとか(笑)。

――くすっと笑えて物語に奥行きが生まれるような設定が、たくさんあるのですね。しかしあまりにもさり気ないので、一度観ただけではなかなか気づけないような気もしますが……。
眞鍋:そこに狙いがあります。今は、広告がWeb上にアーカイブ化される時代です。おもしろいものは何度でも再生できますし、一時停止して確認することもできますよね。
だからこそ密度の濃いコンテンツを作り、「こんなネタが隠されていた」「このシーンはこういう意味なのでは?」などと考えながら繰り返し観てもらうことで、コミュニケーションを濃密なものにしていくとを狙いました。
片山:大ヒットしている「新世紀エヴァンゲリオン」や「機動戦士ガンダム」といった作品も、何度も観られて様々な考察が加えられることで、人々の中で大きな存在になっていますよね。
眞鍋:はい。広告を水モノとして消えてしまうのではなく、残っていくコンテンツにするためにも、濃度を高くすることは有効だと考えています。
片山:そして、この動画に共感してほしい理系の生徒さんは特に、何かを発見したり、謎を解いたりすることに強い喜びを感じてくれる傾向が強い。そのような面でも、あちこちに仕掛けを用意していくことは重要でした。
近大PRの原点は「コンテンツの力で理念を体現する」
――インパクトのあるクリエイティブを展開しながら、大学として伝えたいメッセージもしっかり載せていくというのは難しいと思います。今回はどのような工夫をされたのでしょうか。
眞鍋:「伝えたいことをコピーに集約する」ことです。そこさえブレることがなければ、単純な話題化だけに留まらずに人の心を動かすコンテンツになるはずだと思っています。
今回の場合は、「ロボット、IT、情報通信など、工学はこれからもモノ作りの根幹をなす学問で、世界を舞台に活躍するための強い武器。そしてこれからの時代、何を学んだか? ということが学歴以上に大事になってくるはず」。そんな想いを「武器は、工学歴。」というコピーに集約することを意識しました。
小笠原:高校生へのメッセージを直接的に打ち出すのではなく、コンテンツに載せて伝えるということも重視しましたよね。
「未来にはばたく」「夢をかたちに」という言葉を使わずに、ロボットそのものやストーリーを通じて夢や可能性を見せていく。「この大学に入学して自分を変えよう」という抽象的な伝え方をするのではなく、マグロの特性にひっかけて「泳がないと死ぬ」という伝え方にする。コンテンツがもっている力をきれいな言葉で邪魔しない、というのも重要なことだと考えています。