膨大なデータの可視化で発想の幅が広がる
加えて、Marketing Cloudの導入を機に、SMSでのプッシュ通知も開始。メールを送れない、または開封されない顧客に対する新たなチャネルとして効果が現れている。紙のDM送付コストが1通60~70円であることを考えても、SMSはコスト効率が良いという。
メールに加え、アプリ、SMSと伸び調子のオンラインで多様なチャネル展開が可能になったことに加えて、Marketing Cloudの導入で副次的な効果もあった。そのひとつが、データベースとしての活用だ。これまでは、いち顧客について氏名や住所などの個人情報、都度の注文内容があり、それが顧客の数だけあるという膨大な量のデータのポテンシャルを引き出せていなかった。
「『このセグメントで切って』とIT部門に依頼するものの、そもそもそのセグメントでいいのか、仮説の精度自体が高くありませんでした。またIT部門からのレスポンスも『指示通りに切った』というものにとどまり、それ以上にならなかったんです」と薮内氏。
それがMarketing Cloud上にデータを一元化したことで、マーケティング部内で顧客のデータを見ることができるようになったため、パッと思いついたセグメントを作成してみたり、この顧客が本当に優良顧客なのかを確かめたりといったことが、簡単にできるようになった。それまでは、どのような情報が紐付いていたのかわからなかったが、データの可視化が可能になったことで、そこから新たなセグメントを見出せるようになり、発想の幅がぐっと広がっているそうだ。
「お客様のための活動」を見失わずに
Marketing Cloudを活用してオンラインチャネルを拡大しただけでなく、既存のデータのポテンシャルを引き上げ、さらにチームの人的リソースも最大限に活かせるようになった。導入から1年半が経ち、目に見えて成果が現れている状況だが、それでも薮内氏は「まだMarketing Cloudの機能を2~3割しか使いこなせていないと感じる」と話す。
たとえばソーシャルメディアだと、今は別の担当者が専用ツールを使って運用しているが、「Social Studio」に一元化できるのではないか? カスタマージャーニーの観点では、「Journey Builder」も使いこなせていないので、チャネル横断だけでなくメール内でも分岐させて、もっと数多くのシナリオを作ってPDCAを回せないか? ……と、日々次なる活動のアイデアが生まれている状況だ。
冒頭で紹介したように、以前のツールで行き詰まりを感じ、フルスクラッチでのツール開発にまで挑戦していたピザハット。試行錯誤の上にようやく自社にマッチするマーケティング基盤を整備できた今、薮内氏は改めて「“お客様に喜ばれる”ための活動をしているんだと見失わないようにしたい」と実感を語る。
「ツールや施策はあくまでその手段ですが、以前はそこに手間取ってしまっていました。今後は今まで以上にマーケターの発想力を大事にして、お客様にとっての価値提供に注力したいと思います」(薮内氏)
カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント
大島:MAの導入で「施策の実行がしやすくなった」という同社は、ABテストによるメールコンテンツの最適化や、アプリのプッシュ通知など、地道な改善によって着実に成果をあげています。特徴的なのは、データを基に消費者の利用状況の変化を想像し、消費者の行動に合わせた施策を実施していること。同社の施策がきちんと成果につながっているのは、“お客様に喜ばれる”ための活動が、受け入れられている証拠に他なりません。少人数のチームであっても、ツールが“施策実行に対する足かせ”を外し、マーケターが発想に専念できるという、まさに理想的なケースと言えるでしょう。
安成:どんなに高機能なツールを導入しても、活用して成果が得られるかは別の問題です。「メールマーケティングの限界」を感じながらも、それを乗り越えるために既存の仕組みをリセットし、新たなMAツールとしてMarketing Cloudの活用に挑戦したピザハットは、変化と引き換えに劇的な効率化と大きな成果を手に入れました。自社の常識や過去の成功体験に縛られずに、仮説検証に挑む姿勢が、同社が成功した要因の一つでしょう。今後も「お客様のための活動」に向けて、同社がどんなアイデアを実現していくのか、目が離せません。
カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、安成率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコムでB2Cカスタマージャーニーシニアスペシャリストとして、データに基づいたカスタマージャーニーの設計・検証・再現などを追求してきた大島彰紘氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら。