琴線に触れる言葉を探す
MZ:集めたインタビューはどのように活用していますか。
山邊:インタビューの中から得た気づきを、付箋に書いてCFLのフロアの一角にバーっと貼っています。そうした声は、アナログで活用しています。というのは、多数決の意見でものを作らないからです。たった一人しか言っていないことかもしれないけれど、ものすごく琴線に触れたものを突き詰めていくと、結構多くの人の共通の悩みだったよねというような潜在的なニーズを発掘しようとしています。
MZ:琴線に触れるのは、どういった声なのですか?
山邊:たとえば自分の中で諦めたり割り切ったりしてしまっていて、当事者が自覚していない願望みたいなものです。そういうものは、インタビューでも本人の言葉から直接は出てきません。そのために、大学生にインタビュアーをしてもらっています。社会人には当たり前になってしまっていることも、大学生から見ると驚きや疑問に感じるという違いをあぶり出してもらおうと思っていて。そういうところから、「言われてみれば確かにそうだよね」という気づきが得られます。
属性で分けない、領域を絞り込まないデータ活用
MZ:琴線に触れた個の意見をキャッチアップすることと、データ活用は対極にあるように思えますが、ヴァリューズではどのような支援を行ったのでしょうか。
山邊:僕らがインタビューの中で、ちょっと気になったテーマを深掘りして調べてもらったりしました。併走するパートナーとして「こんなことを調べて欲しい」という話をして、キャッチアップしてもらっているという感じですね。
和田:毎月打ち合わせをしているのですが、山邊さんが持ってきた気になるキーワードをヴァリューズ独自保有の約30万人のパネルデータを使用して調査したり、ソーシャルリスニングをしたりします。そうしたデータからなんらかの答えが出てくるという前提ではなく、データは仮説を確認するためのもので、最終的にはディスカッションして人間が考えていくというやり方で進めていました。
山邊:よく行われるターゲットを絞って、領域を絞って、こういう層にどういう商品を作るべきかというやり方を僕はつまらないと思っていて。狭めたって正解かどうかわからないから、広げるだけ広げてやった方がおもしろいと思っているんです。あと、年齢や性別といった属性に囚われてステレオタイプなイメージを持ってしまいがちですが、それを全部ぶち壊したかったんです。
和田:データの読み方も気をつけないと恣意的になってしまうことが少なくないですね。広げて考えたほうが気づきも多かったりします。山邊さんとのお仕事では一つのデータソースから答えを急ぐのではなく、手に入るいろいろなデータソースから多面的に人の悩みについて考えていました。たとえば同じトピックでもSNSでよく言われていることと、検索エンジンでよく検索されていることにはギャップがあって。
山邊:他には、いろいろな人のデジタル上での行動履歴を1週間取って、その推移を見られるツールを作ってもらいました。データってある意味無機質なものですが、そこから垣間見られる物語があっておもしろいんです。その人がこういう言葉を検索したということは、どんな心持ちでそうしたかを想像して、立体化していきました。
和田:人格って今の時代では多面的になっていて、おそらく同じ人でも場面によって見せている面が違っている、どっちが正しいというよりもどっちも本当の自分みたいな人は特に若い人には多いように思います。データはあくまで一面を計測したものなので、一面から全部がわかるわけではない。データを通して裏にある現象を捉えるような取り組みですよね。
MZ:ヴァリューズで分析したデータは、どのように商品開発につながりましたか。
和田:実は最終的にどういった部分に反映されているのか、私自身もわからないんです(笑)。
山邊:ヴァリューズさんにやっていただいたことは、広げるプロセスにおいてとても重要だったんですよ!(笑) きれいに整理された情報から新しいものが生まれてくることはありません。いろんなことが折り重なって生まれてくるものです。そのためには視野を広げるプロセスが欠かせないのです。