ABM導入後は商談の割合が数倍に
――そうした活動を経て、冒頭でうかがったBtoB事業の伸長が実現しているのですね。ABMの具体的な成果や手応えをうかがえますか?
ABM導入前の、コンタクトリストの一番目から順番に電話していた状態から、導入後のしっかりセグメントを切ってからアポイントを取って進める方法に変わって、まず営業が商談できる案件化の割合が数倍になっています。
また、ツールを入れた当初は「どのセグメントが最も案件化できるか、アポイントを取りやすいか」という観点のみを重視してセグメントを切ってきましたが、3年目になってそれも精緻化してきました。案件化以降の成約率なども見えてきたので、その分析を通して、そこからさかのぼってセグメント設定に活かしています。具体的には、このセグメントだとアポイントは取りやすいが受注につながりにくいとか、逆にアポイントの確率は高くないが受注はかなり見込める、といった議論ができるようになりました。
――ABM上で意識している効果測定指標は?
リード数を追っていますが、ABMに関してはターゲティングした中でのリード数を高めないと受注につながらないので、特にその数を重視しています。当然、ECをはじめとするABM以外のリレーションに関しては別のKPIを置いています。
顧客化後のクロスセルなどを担う専門組織の確立も視野に
――知見が貯まっている様子がうかがえますね。御社なりの形、というお話もありましたが、ABMを含めたBtoBマーケティング全体で注力していることはありますか?

VAIO株式会社としての独立以来、BtoB向けをかなり強く打ち出しているのですが、それ以前のBtoCのイメージが強力だったためか、しばらくBtoBの認知が低いことが課題でした。そこでまず、数年かけて広告と広報でその認知を高めました。同時に導入事例の記事を冊子とWebで展開しています。それ自体はよくある施策だと思いますが、当社はさらにセグメントで切ったメルマガやWeb広告で適した事例をプッシュしており、そこからのインバウンドの割合が伸びていますね。今後は、より細かいセグメントへの出し分けやクリエイティブの最適化にも取り組みたいところです。
また、中盤で紹介したコンテンツマーケティングも、間接的なアプローチではありますが、地道に続けています。先述の「Work×IT」は“ワークスタイル変革の支援サイト”と銘打っていて、VAIOに直接関係する記事はほとんどありません。ですが、当社の製品はモバイルPCがメインですので、社内のフリーアドレス制や社外でのモバイルワークに適しており、昨今の働き方改革とは密接な関係があります。
――では、今後の課題や展望を、ABMとそれ以外を含めたBtoBマーケティング全体についてうかがえますか?
まずABMでは、既存の体制で営業が接触できなかった部署や役職層にもアプローチできることが利点だと考えているので、引き続きターゲットセグメントの精緻化や、よりマッチング精度の高い専用コンテンツの提供も進めていきます。
全体的には、より継続的な顧客との関係構築とブランディングが課題です。従来は売り切り型だったPC業界でも、サブスクリプションの考えが昨今、重視されています。当社も継続的な顧客との関係構築を目指して納品時のセッティングやアフターフォローを充実させていますが、まだカスタマーサクセスのような部門があるわけではありません。現状では担当営業がフォローする形なので、既存顧客へのクロスセルやアップセルを推進できる組織が必要だと考えています。
ブランディングに関しては、VAIOブランド自体の知名度はあるため、法人向けPCがそろっていることが認知されると「それならVAIOが欲しい」とご指名いただけることも多いんですね。最初から選択肢に挙げていただいたほうが確度も高まりますし、そこは当社の強みとして今後も認知度向上に努めます。
またBtoB事業では、PCで培った高度な技術を活かした受託型のEMS(Electronics Manufacturing Service)やソリューション事業も好調で、まだ伸びしろが大きい状態です。これらを含めたVAIOブランドの強化を推進し、PCだけでない技術の先進企業としての印象を高めれば、BtoBだけでなくBtoCへもプラスの影響が期待できます。メイド・イン・ジャパンのものづくりの力を主軸に、組織や方法は柔軟に変化させながら、さらに存在感を増していきたいと思います。