本音に迫る調査とは?
女性インサイト仮説を説き終えた吉丸氏は、会場に疑問を問いかけた。
「データを見るときに、インプットデータの背景まで見ていますか? アンケート結果で、『80%の人が良い』と言っている場合、それは果たして本音が出ていると言えるのでしょうか?」(吉丸氏)
一般的な意識調査のアウトプット例として吉丸氏が取り上げたのは、2016年に共同印刷が行った調査の設問と結果だ。吉丸氏曰く、これは“女性の本音に迫っていない調査”だったという。「ご家族の中であなたが頻繁に話や相談をし、ご自分の意識や考え方に影響を与える方は誰ですか」という問いに対し、「夫」という回答が特出している。
実はこの調査票の選択肢では「夫」が最初にあった。そのため、「『おそらく、質問者は“夫”と答えて欲しいのだろう、“夫”と答えておけば無難だろう』と女性はすぐ見抜きます。ですから、この調査では、“夫”と答えている割合が多かったのではないか」と、吉丸氏は分析する。
WIC@LABのリサーチでは、アンケートに慣れきってしまった女性が、「え、何これ?」と思うような調査票の作成を目指すという。「女性のホンネに迫ることのできる調査票の追究」がWIC@LABのポリシーだ。
その「女性のホンネに迫ることのできる調査票」について、吉丸氏は、「セクシーな調査票」とした。以下が今年、実際に実施した「セクシーな設問」の例である。恋愛結婚のパートナーについて尋ねている。
セクシーな設問は、様々な要素が入りつつ、かなり主観的な内容の文面となっている。「実際に私がこの立場に置かれたら……」と思わせるストーリーを立てて“セクシーな設問”は作られます」と、吉丸氏。もう一つのポイントは、みんながみんな「いいね!」をしない設問設計だという。あえて30%程度の賛成率を目指して設計しているそうだ。
データは人そのもの
吉丸氏はデータについて、「データは人そのもの。人の営みであり、考えであり、行動である」と定義した。
「『データは人そのもの』と考えたとき、共有するインターフェースはやはり、“人”、つまりペルソナであるべき。“人”という直感的なイメージならば、社内外の様々なレベル感の人と共有しやすいのではないでしょうか 」(吉丸氏)
その“人”に焦点を当て、ペルソナを主体としたデータプラットフォームが、WIC@LABが開発している「ペルソナキューブ」だ。ペルソナキューブでは、中心に4×4のペルソナ、左右にアンケート設問がパラメータとして並んでいる。簡単な操作で、ペルソナ別の女性の行動様式や購買パターンを分析することができる。アンケートデータ以外の様々な顧客に関するライフログデータを取り組み、進化するプラットフォームを目指している。タイアップキャンペーンや異業種間のブランドのタイアップ、ターゲット選定まで、幅広い用途での活用が考えられる。
サービスデザイン思考においても、ペルソナキューブは活躍を期待できるそうだ。これまでペルソナとカスタマージャーニーを作るためには行動観察やインタビュー、ブレストを繰り返さなければならず、数ヵ月もの時間を要する作業だった。吉丸氏は、ペルソナキューブによってその時間の短縮も期待できると説く。
「サービスデザイン思考において最も時間をかけるべきなのは、プロトタイプを作る部分だと考えます。ペルソナキューブでは、よりスピーディーに仮説と検証が行える」(吉丸氏)
WIC@LABの正式な募集開始は2019年10月から、ペルソナキューブの本格稼働は2020年4月の予定。セッションの最後に吉丸氏は、WIC@LABの構想と目指す世界を語り、セッションを結んだ。
「女性市場を捉えるために、異業種間を連携させるペルソナキューブの開発と研究を目指し、共同印刷はWIC@LABを立ち上げます。新たなマーケティング手法を様々な企業と共に開発、運用していくことが、WIC@LABの目指す世界です」(吉丸氏)