スマホ&アプリが牽引する外食業界のビジネスモデル変革
フードデリバリーという概念は、実は日本でも古くからあったモデルです。諸説ありますが、当時の街の様子などをまとめた本によると出前というモデルは江戸時代中期までさかのぼるそうです。日本では今から160年も前に誕生したものです。それから飛んで1970年代、外食業界に登場したのはいわゆるファミリーレストラン。この登場により、それまでは「特別な日のご馳走」だった外食が身近なものになり、これによって出前文化は縮小してしまいました。
ところが、ドミノ・ピザに代表される宅配ピザを契機に、再び日本でフードデリバリーが広がっていきました。各企業はこの流れに乗るべく、自社でデリバリー設備や人員へ投資をしました。そして現在は再びスマホを活用したフードデリバリーが発展し、モバイルプラットフォームの企業がフードデリバリーの仕組みを提供し、外食業界の多くの企業がそのプラットフォーム上でビジネスをするという構図に変化しています。
この流れは日本国内だけでなく、世界中で起きています。この10年でスマホは世界中に急速に普及しましたが、同時にスマホのプラットフォーム、つまりAppleのiTune StoreやGoogle Play Storeの存在が多くのビジネスモデルを創出していることは特筆すべきことでしょう。

App Annieによると、2018年のフードデリバリーアプリ上位5位の世界ダウンロード数は、2016年と比較して2倍以上に伸びています。2018年の世界ダウンロード数上位2位は、Uber EatsとZomatoです。特に伸び率の高かったのは前述したインドで、900%増と最大の伸び率を示しました。一方、フードデリバリーアプリは西側の市場でも需要が高く、カナダが255%増、米国が175%増でした。
カナダのiOSにおいては、「Skip The Dishes」というアプリが2018年に最もダウンロードされたフードデリバリーアプリでした。このアプリはJust Eat社が運営しており、南米や北欧、オーストラリアにも展開しているイギリスのスタートアップです。Uber Eats一強ではなく、国によって競争環境が大きく異なるため、Just Eat社の各国のマーケティングと市場開発のやり方を参考にしてみると良いと思います。
Uber Eatsの急速な拡大によって失われるもの
2018年に世界で最もダウンロードされたフードデリバリーアプリ「Uber Eats」について、日本国内における動向をデータから掘り下げて見てみましょう。
App Annieのデータをもとに、2016年7月から3年間のダウンロード数の推移とMAUの推移を見ると、それぞれ月次の成長率は950倍、47倍と驚異的な成長を続けています。新規ダウンロード数を継続して獲得するには相応のマーケティング投下が必要ですが、この3年間着実に新規ユーザーの獲得を続けてきつつ、ユーザーに利用されるサービスに成長していることが明らかです。

このデリバリープラットフォームのビジネスの広がりを目の当たりにすると、世界中の外食企業がこのプラットフォームを活用してビジネスを展開する意思決定を下すことは想像に難くありません。おそらく、Uber Eatsのセールスの方々は、この規模と成長をアピールし、売上がどれだけ上がる見込みがあるのか試算し、加盟店を増やす活動をしていることでしょう。
特にこの日本では労働生産性が伸び悩んでいる中でさらなる人口減に直面し、所得の二極化もさらに進むと言われています。限られた食事の機会の中でいかに選んで利用してもらうのか、各企業は長期視点の事業継続リスクを意識していることと思います。このような状況下で、たとえ30%以上ものプラットフォーム手数料を支払うことになっても、売上のトップラインを確保するという事業会社としての責務を果たす手段としてUber Eatsに加盟する企業の判断は否定できません。
ところが、多くの企業の上位役職者とこのような「外資プラットフォームを利用したビジネス」について会話する際に、論点にすら上がらないテーマがあります。それは「生活者のデータ」です。
Uber Eatsに加盟すると、短期的な売上は増えるでしょう。継続的に売上を伸ばすという視点においても、彼らの持つ巨大なプラットフォームと洗練されたUI/UXを活用することで果たせると思います。しかし、30%以上のプラットフォーム手数料を支払う事で、多くの外食企業は利益を出せずにいるとも聞いています。しかし、利益だけではなく、生活者データも失っていることに気づいているでしょうか。短期的な売上のために、10年後の顧客を作るZ世代へのマーケティングを軽視していることなっていないでしょうか(参考記事)。
これはUber Eatsに限った話ではなく、外資OTA(Online Travel Agency)のビジネスにもまったく同じことが言えます。外食企業が手にするのは「何が、いつ、どれくらい売れたか」というPOSデータです。POSデータは100年前の技術です。この枯れた技術でこの先どうやって分析してマーケティングに活かせばよいのでしょうか。
一方で、プラットフォームであるUber Eatsには、どんな人が、どれくらいの頻度でどういう時にアプリを開き、どんなキーワードで検索し、どんなジャンルを選択し、配送料がいくら以上だとオーダーしないのか、という「オーダー前の振る舞いデータ」がすべてログとして蓄積されています。加えてライドシェアのUberが運営しているサービスですので、今後Uberがライドシェアとして日本国内に展開した際には、移動情報と生活圏までもがデータとして統合されていくでしょう。