もっと入り口の段階でデジタル広告を機能させたい
トヨタ自動車のミッドサイズSUV「RAV4」が、今年4月にフルモデルチェンジして新登場した。5代目となる同モデルは、SUVとしてのスペックが大幅にランクアップしただけでなく、力強さと洗練性を併せ持ったデザインも支持を集め、破竹の勢いで伸びている。当初目標としていた月間販売台数は3000台のところ、5月には累計販売台数が2万4000台に達し、半年間にわたりSUV販売トップを文字通り爆走中だ。
「SUVが本来持っている“ワクドキ”感を追求して、アクティブなユーザーに好まれる走破性とスタイルを1台に盛り込みました」と、トヨタ自動車の鈴木琢磨氏はその魅力を語る。
プロモーション上のテーマとなったのは、生まれ変わったRAV4ブランドの認知と理解促進だ。初代RAV4はコンパクトSUVとして発売されたため、それを知る人にはミッドサイズSUVとして、さらにそのクラスの中でも「本格的」なSUVとしてブランドイメージを刷新することが求められた。一方、以前のRAV4を知らない20-30代や車の購入検討度合いが薄い潜在層には、どう振り向いてもらうかが課題となった。
「アウトドアのアクティビティーを楽しむ方なら、RAV4は年齢を問わず十分満足していただけます。ただ、そもそも車の購入を検討していない人にRAV4を提案するのは難しいことと、特に若年層になるほどマス広告では届きにくい点がネックでした。いわゆる“比較検討”に効果的とされるデジタル広告ですが、もっと手前の商品理解や認知に効果を発揮させられないかと考えていました」(鈴木氏)。
国内自動車業界で初となる「3D Cube広告」
前述の課題を前提に、具体的なターゲットを3つ設定した。ミッドサイズSUV車を検討している30-40代のアクティブなユーザー、ミニバンなどを検討しているファミリー層、そしてキャンプやスキー・スノーボード、サーフィンなどアウトドアのアクティビティーを楽しむ層だ。この3つ目の層には、車の購入検討度合いが薄い潜在層や若年層も含まれる。
トヨタ自動車のハウスエージェンシー、デルフィスでアカウントディレクションを手掛ける花本俊也氏は、「デジタル広告では、1つ目と2つ目の層に対しては主に年齢や属性、自動車への関心でターゲティング。3つ目の層へはアウトドア意向など興味関心軸でターゲティングし、クリエイティブもそれぞれに作り分けアプローチしました」と解説する。
走行中のリアルな姿のクリエイティブにこだわった静止画バナー広告も一定量を用意したが、それに加えて今回は、TeadsのダイナミックなinRead®クリエイティブ広告である「inRead®3D Cubeフォーマット」と「inRead®Skin&Flow フォーマット」の2種も採用した。いずれもユーザーのアクションによって変化するインタラクティブ性が特徴で、特に3D Cubeフォーマットは国内自動車業界ではトヨタ自動車が初の導入事例となった。
世界27ヵ国で広告事業を展開するTeadsは、プレミアム媒体の記事中へクリエイティブを掲載するビューアブルでブランドセーフなinRead®フォーマット技術を世界で初めて開発した。現在は、The Global Media Platform(ザ・グローバルメディアプラットフォーム)と銘打ったプラットフォームを運営し、制作から配信まで一気通貫で手掛けている。ブランド棄損の心配がない媒体、及び記事面に絞って配信できる透明性は、ブランドセーフティーの観点から世界各国の大手企業が取り入れる要因になっている。
今回この2つのクリエイティブを採用した理由について、鈴木氏は前述の「ブランドイメージの刷新」を挙げる。映像で伝えられる魅力だけでなく、クリエイティブの形式でも“ワクドキ”を感じてもらえること、さらにRAV4を知らない潜在層にも前のめりになってもらえる体験型の仕掛けが「視聴性を高めてくれるのでは」と考えたという。
感性に訴えて「楽しんでいただける広告」であるように
以前、トヨタ自動車の別車種のプロモーションでTeadsのinRead®広告フォーマットが一定の成果を上げたことも、採用の決め手となった。メディアプランニングを担当するデルフィスの須崎祐史氏は、以前の成果について「CTRや動画の視聴完了率が他のデジタル広告より平均的に高く、また流入したユーザーの直帰率は低かった」と振り返る。「直帰率が低いというのは、ユーザーにしっかり伝わった状態でランディングページに遷移してもらっている表れです。それが評価の大きなポイントでした」(須崎氏)。
こうした成果の背景には、配信の高品質性に加えて、オリジナリティが際立つクリエイティブ性があるだろう。Teadsは本社を置くフランスにクリエイティブスタジオ開発拠点を設けており、そこで日々効果的なクリエイティブが追求され、各国での好事例がまた他国へと共有されている。
「独自のインタラクティブなクリエイティブでは、ユーザーの心をつかむことを最も大切にしている」と話すのは、Teads Japanの世安周氏。日々膨大なデジタル広告に接触している今の生活者には「広告だ」と思われた瞬間に素通りされることが多い。「ユーザーを惹き込めるクリエイティブはアクションを促し、それは必ず数値に表れます。ユーザーが興味を惹かれるような楽しめるクリエイティブを作り、クライアント様のKPIを最大化させていくことが、我々が目指す広告の在り方です」(世安氏)。
ユーザーに「おっ!」という驚きを。この感覚を求めることが強さを生む
実際、一般的にバナー広告の接触時間は2~3秒といわれるところ、TeadsのinRead®クリエイティブは静止画でも平均11~13秒も接触されているという。ユーザーが「おっ!」と受動的に惹きつけられるような仕掛けを作ることで、インタラクティブ性の高いフォーマットが興味喚起や商品理解につながり、プロダクトのサイトに遷移しても直帰率が低いのだと読み解ける。
クリエイティブを担当したTeads Japanのデザイナーの安尾有里左氏も、世安氏の意見に賛同し、「人は自分の興味がないことをあえて読んだり調べたりしないので、ひとりのユーザーとしての視点を常に心がけています。また、ユーザーの皆さまが楽しみながら私たちのクリエイティブを体験・接してくださるシーンを想像し、制作にあたっています。おそらく私が1番楽しんでいるのかもしれません」と話す。
今回採用されたinRead®3D Cube、inRead®Skin&Flowはいずれも日本マーケットでの新規性が高く、ユーザーにとってはほとんど見たことがないような仕掛けが施されていたため、関与することで起こる変化を楽しんでもらえたのだろう。能動的に触って、驚きとともにプロダクトを知ってもらう、体験型のフォーマットがRAV4の“ワクドキ”感と相乗効果を生み出した。
「本来はクライアントと私たちで訴求のポイントや最適なクリエイティブを模索するところ、今回はデルフィスさんにすばらしいディレクションをしていただいて。inRead®3D Cubeでは『RAV4って何?』に対する回答として4つの魅力を4面ではっきり見せるなど、焦点を絞った強い訴求にしようといったことが明確になっていました」と安尾氏。このチームワークも、RAV4の魅力と新規性のある広告フォーマットの相乗効果を高めたようだ。
トヨタ自動車内で1位、2位を争う“平均年齢が低い車”に
改めて、ミッドサイズSUVとしてのRAV4を印象付け、若年層を含む購入意向潜在層へのリーチも狙ったプロモーションの成果はどうだったのだろうか? 事後のブランドリフト調査などを通して、「2つの広告に触れた人には、触れていない人に比べてブランド理解が深まったことが確かめられました」と鈴木氏は語る。
inRead®3D Cubeに関しては、触って次々と異なる魅力が現れることに気づいてもらえるかが懸念だったというが、調査から多くの人が仕掛けを楽しんだ様子がうかがえた。「元々チャレンジングな狙いだった『アウトドアは楽しむものの、車の購入検討度合いが低い方が多く含まれるであろう潜在層や若年層』についても、購入意向顕在層に比べてそこまで遜色なく高いブランドリフトが得られました。間口を広げることの結果がどう出るかと思っていましたが、トライした甲斐がありました」と花本氏。
実際の販売台数にはマス広告や体験会などの効果も含まれるものの、元々チャレンジングなターゲット設定だった20~30代の購入者が多かったことには、トヨタ自動車として大きな手応えがあったようだ。今、同社の車種の中でも1位、2位を争うほど、購入の平均年齢が若い車になっている。
「自信を持ってアピールはしたものの、決して安価な買い物ではないので、こんなにも20~30代に受け入れられ、初めて買う車として選んでいただける方が多かったのはうれしい限りです。もちろん、最終的にはデジタル広告を経由してどれだけコンバージョンしたかも指標として追わなければいけませんが、事前に考えていた『商品理解や認知にまでデジタル広告を機能させたい』という点には、今回の広告で潜在層を振り向かせることができたのではと思っています」(鈴木氏)。
商品理解や認知の獲得を左右するのはクリエイティブ
中盤で世安氏から「広告だと思われると素通りされがち」という実感が語られたが、ユーザーがその媒体を訪れる目当ては記事内容であるだけに、広告がどれだけアトラクティブであっても時間やアテンションを大幅に割いてもらうことは難しい。クライアントが伝えたいことと、ユーザーへの提案性や受容度合い、タイミングなどのバランスをとることが常に求められる。
須崎氏は日々様々なフォーマットの広告に触れている経験から、「静止画は表現や情報が制限されますが、一方、動画広告でクオリティの高い映像をただ流せばよいかというと、映像は脳が解釈するのに時間がかかるため、時間的な制約がかかります。その点、Teadsの広告は両方を補完しあうインタラクティブなフォーマットによって“心地よい違和感”をもたらすことができる。それが他の広告にない特長だと思います」と語る。
出版社や広告代理店でマス広告を扱うキャリアを経てTeadsの広告に携わる世安氏は、デジタルでは結果が数値で可視化できるだけに、どうしても数値にフォーカスしがちだと指摘する。「それはデジタルの魅力ではありますが、やはり広告は人の心を動かしてこそ機能するものなので、クリエイティブの質やバランス感、さじ加減ひとつで成果が大きく変わるものだと実感します」。今後もTeadsでは新しいフォーマットの開発とトライアルに積極的に取り組むという。
購入意向顕在層に主に使われてきたデジタル広告。今回の施策は、クリエイティブ次第でその位置づけを捉え直し、潜在層への訴求にも十分機能させられるとわかった好例と言えるだろう。