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MarkeZine Day 2026 Spring

ダイバーシティから考える、新しいマーケティング・コミュニケーションの視点

生活者の琴線に触れ、バイアスを解放するコミュニケーションメッセージのヒント

なぜトヨタと『Domani』は炎上したのか

白石:炎上したコミュニケーションについて思うのは、制作にはたくさんの人が関わっているはずなのに、どうして誰も意見を言わなかったんだろうということなんです。その中には、炎上したメッセージのターゲットである当事者に当たる人もいたでしょうし、違和感を抱いたスタッフもいたはずです。

守屋:私は広告の制作現場にいたわけでもなく、制作関係者にインタビューをさせていただたわけではないため、明言は避けたいと思います。ただ、ひとつの可能性として、あくまでも仮説になりますが、関係者(作り手)が「アンコンシャス・バイアス」に気づかなかったのかもしれません。

 また、メッセージに違和感を抱く人がいたとしても、集団同調性バイアス(周りと同じように思う)や、正常性バイアス(このくらい大丈夫。このメッセージは賛否両論でるかもしれないけれど、大問題にはならない)、権威バイアス(専門家がこのメッセージでいこうと言っているから大丈夫)等といった様々なバイアスが影響した可能性はあるかもしれません。

白石:広告の本来の目的を作り手側が見失って、自分の立場を守ることに固執したり、会議が円滑に進むことを優先してしまう。その結果、本質的なポイントが見過ごされてしまうんですね。

 ここからは、「アンコンシャス・バイアス」の視点から、炎上した案件を分析していきたいと思います。まず、2019年3月にトヨタのTwitter公式アカウントが「女性ドライバーの皆様へ質問です。やっぱり、クルマの運転って苦手ですか?」と投稿し、炎上しました。

守屋:これは、属性に対する固定観念を否定的に決めつける表現を使ってしまったケースですね。「女性とはこういうものだ」と属性でひとくくりにして、決めつけてしまったことが、多くの方の反発を招きました。

 ここで問題なのは「やっぱり」という言葉を付け足したこと。「女性ドライバー」と「運転が苦手である」という特性を、「やっぱり」という言葉で結び付けて、決めつけてしまったことで、見る人の心象を悪くしてしまったのです。

白石:「やっぱり」という言葉が、属性へのネガティブなイメージを助長したんですね。

守屋:はい。これがたとえば「あなたは運転が苦手ですか?」と質問した後、回答者の「男性」「女性」の属性を調査したのであれば、ここまで大きな反応にはならなかったと思います。最初から「女性とは運転が苦手なはずだ」と決めつけたところに、人々が反応したのです。

白石:なるほど。では、小学館の30~40代女性向け雑誌『Domani』の駅貼り広告「働く女は、結局、中身、オスである」というコピーはいかがでしょうか。個人的には、作り手側の女性たち自身が、自らにかけているバイアスを露呈してしまったのではないかと感じました。

守屋:まず、「働く女はオスである」と、言い切ってしまったことが、嫌悪感を生んだ大きな原因の一つです。さらに「働く女とはこういうものだ」と「決めつけ」ています。

白石:まさに「言い切り」と「決めつけ」ですね。「アンコンシャス・バイアス」を解放するために重要とおっしゃっていた「問いかけ」と「対話」とは真逆ですね。

価値観を押し付けたメッセージへの反発

守屋:リサーチに関わる方々は特に気をつけていただきたいことなのですが、たとえばグループインタビューで「働いている時の私」をテーマにしたとします。参加者のひとりが、「働いている時の私って、オスだと思うんですよね」という「Iメッセージ」の意見を出した後に、この「Iメッセージ」に共感した別の誰かが、「私もそう思う!」「私も!」といったように、そこにいた他の参加者が相次いで賛同したとします。ここに確証バイアスが生まれる危険性があるのです。

白石:私はリサーチャー出身なので、とてもよくわかります。参加者から共通して多く出てきた言葉や意見が、その属性の傾向を表したものだと理解しがちです。

守屋:大切なのは、「大多数の意見はそうかもしれないけれど、本当にそうかな?」「決めつけてしまっていいのだろうか?」といったように、確信を疑うこと、「アンコンシャス・バイアス」を意識することです。

白石:グループインタビューなどの調査で得たインサイトを、属性でくくり一般化してしまうのではなく、ひとつの問いかけとして読者と対話するスタンスが重要ですね。特にダイバーシティに関わるテーマは、どうすれば一人ひとりに届くのか、一度冷静に考えるべきだということですね。

守屋:また、企業のマーケティングコミュニケーションに携わる人が、上位者バイアスに陥ってしまうと、「トレンドを作っている」「時代の価値観を作っている」といったメッセージが伝わり、そこに受け手は敏感に反応します。

白石:確かに、生活者が「生活者と企業が平等ではない」と敏感に察知したキャンペーンはことごとく炎上している印象がありますね。

守屋:今は個々人がそれぞれの価値観で生き、それぞれの価値観を大切にしたいと考えています。だからこそ、価値観を押し付けるメッセージには敏感に反応してしまうんです。

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ゴディバが解き放った「義理チョコ」の呪縛

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この記事の著者

白石 愛美(シライシ エミ)

コーポレートコミュニケーション コンサルタント
株式会社Amplify Asia 代表取締役
株式会社YUIDEA 社外CMO

WPPグループにて、リサーチャーとして主にマーケティングおよびPR関連プロジェクトに従事。 その後、人事コンサルティング会社、電通アイソバーの広報を経て、ダイバーシティを起点に企業のマーケティングをサポートする株式会社Amplify Asiaを立ち上げる。2024年10月より、YUIDEAの社外CM...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/16 08:00 https://markezine.jp/article/detail/32414

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