顧客と会わずして、セールスステップを先に進める
よく耳にするようになったマーケティングオートメーション(以下、MA)というキーワード。MAを提供する企業は多く存在するが、中でもSATORI株式会社は、MAツール黎明期である2015年に設立した企業だ。匿名客との接点を最大化できるという強みを持った国産MAツール「SATORI」の開発、販売、活用支援を行っている。「あなたのマーケティング活動を一歩先へ」というミッションを掲げ、現在は600社以上の企業が導入し、成果を出しているという。
ここ数年、なぜ今MAツールに大きな注目が集まっているのか。その背景について、豊川氏はポイントとなる3つの数字をあげた。
(1)見込客のフォローをやめたら、2年以内に80%が競合商品を買う
(2)お客様とのコミュニケーションのうち、85%が会わずして、Webやメール等の活用による非対面で行われる
(3)見込客のうち97%が、個人情報を明かさずに匿名のまま離脱してしまう
「インターネットが発達し、見込客と直接会うことが難しい時代となりました。多くのユーザーが、製品の購入を検討する際、企業から売り込まれる前に自分でネットなどから情報を入手し、比較検討したいと考えています。セールスのステップを先に進めるためには、比較検討の候補に入れてもらうまでを非対面で仕組み化する必要があるのです。その時こそ、MAツールが有効です」(豊川氏)
見込客には、匿名客(資料請求したり個人情報を開示してくれていない、Webサイトを閲覧しただけの見込客)と、実名客(資料請求を行うなど、個人情報を明かしている見込客)がいる。それぞれの見込客に対して、ネット広告や、ポップアップ、パーソナライズ機能、メール、電話、セミナーなどの個々に有効な手段を用意して様々なアプローチを行い、商談につなげることが重要だ。
MAツールの導入を成功させる3つのポイント
とはいえ、闇雲に「とにかくMAツールを入れたからセールス活動が成功する」わけではない。MAツールの導入を成功させるためには3つのポイントがあると、豊川氏は言う。
「まずは導入目的を明確化することです。当たり前のように感じるかも知れませんが、意外とできていない企業が多いのです。ツールを導入すればいきなり商談が増えるだろうと導入してはみたものの、ツールの設定を後回しにしてしまったり、放ったらかしたまま半年以上経ってしまった、というようなケースが散見されています」(豊川氏)
「ツールを導入すれば何もせずとも成果が出る」という夢物語は存在しない。使う側が「リードを増加させたい」「商談化率を改善したい」と目的を決め、主体的に活用していくことが重要だ。
「2つ目のポイントは、ツールは慣れるまでが大変だということです。設定が難しくて手が回らなかったり、営業にトスアップしたもののホットな商談ではないというフィードバックが来てしまった……など、使いこなすまでにいくつかのハードルに遭遇します。こうしたハードルを越えるために、社内のマーケティングにおいて今どんな施策が効果をあげていて、どの施策を強化すべきかを一度整理・分析してみてほしいと思います。
そしてマーケティングで成果を出すためには、ツールの費用だけでなく、展示会の出展費用やコンテンツ制作費用なども必要になってくるので、それぞれの優先度に応じて予算を最適配分する視点を持つことも重要です」(豊川氏)
そして、最後のポイントとして、早期に“小さな”成功体験を作るべきだと豊川氏は説く。
「MAツールは、導入してみるまで本当に効果が出るのかみえないものです。社内に必要性を認知させ、担当者である自分自身のモチベーションを維持するためにも、導入後、早期に“小さな”成功体験を作る工夫をしてみてください。たとえば、何度架電してもコールがつながらない見込客にフォローメールを送るなど、派手さはないけれど数値につながりやすい作業をまずは仕組み化することをおすすめします」(豊川氏)
「今すぐ客」の見つけ方と増やし方
後半、豊川氏はMAツールを活用して見込客を効果的にナーチャリングした自社事例を紹介した。
まず、継続的に商談を生み出すためには、リードを「今すぐ客」と「そのうち客」に分けると良いという。これを「SATORI」の例で考えると、「そのうち客」とは、まだMAツールを必要だと思っていない層で、「今すぐ客」とは、MAツールを既に検討している層のことを指す。下記の図のように、「そのうち客×匿名客」を「今すぐ客×実名客」になるよう見込客をステップアップさせることが必要だ。
「『そのうち客×匿名客』をいきなり『いますぐ客×実名客』に変えることは現実的ではありません。MAツールを活用して、最初は『そのうち客×匿名客』だった方々を興味喚起し、徐々に『そのうち客×実名客』を経て『今すぐ客×匿名客』へとステップアップさせるべき。そこをMAツールで仕組み化することができるのです」(豊川氏)
そんな風に「今すぐ客」を継続的に増やすためには、最適なタイミングで最適なコンテンツを届け、段階的に興味関心を育成することが重要だ。このことを効果的に実践した4つの事例を、豊川氏は紹介した。
事例1:「今すぐ客」の見つけ方
まず1つ目は、メールアドレスがわかっていてホットな見込客にアプローチし既にいる「今すぐ客」をあぶり出した事例だ。
そのために必要なのは、Webサイト上に「今すぐ客」が必ず閲覧する「キラーコンテンツ」を用意すること。たとえば「SATORI」のWebサイトでは「他社との比較」というページが「キラーコンテンツ」にあたる。
「『キラーコンテンツ』とは、実際に購入に至った顧客が、契約の直前にほしいと言っていた資料やコンテンツです。当社の場合、それを契約してくださった顧客が契約直前にどのようなコンテンツを欲していたかを営業担当にヒアリングしたところ、『他社との比較表』だということがわかりました。
その後、『他社との比較表』をWebサイトに掲出し、そのページを見た見込客と見ていない見込客に分けてコールしてみたところ、商談化率に8倍近くの差がつきました。実際にコールをしてみると、笑いながら『さすがMAツールの会社、タイミングがいいね』と言われるくらいホットなケースが多かったですね」(豊川氏)
SATORIが紹介する事例としては、たとえば「他社との比較」ページを180日以内に2回以上閲覧した見込客に対して、インサイドセールスチームへ通知を送り、コールをする仕組みを作る等だ。
事例2:「今すぐ客」の増やし方
2つ目は、「今すぐ客」を増やした事例だ。そのためにSATORIでは「匿名のホットな見込客」へアプローチを実施。SATORIの製品サイトを見てくれた人に「製品の資料をダウンロードしませんか」というポップアップ広告を表示させたり、セミナーに申し込んでいない見込客に対してパーソナライズ機能によってセミナー告知のバナーを出現させるといった施策を行い、セミナーの集客へつなげている。
「ポップアップ広告やパーソナライズから、週2回実施しているセミナーの半数以上を集客できた実績があります。出す相手と場所を間違えなければ、集客につながる可能性の高い仕組みを構築することができます」(豊川氏)
見込客の継続的な増やし方と育て方
事例3:「not今すぐ客」の興味関心を促す方法
そして3つ目は、「not今すぐ客」に対して興味関心を促したいという課題を解決した事例だ。重要なのは、まだ製品にそこまで興味がない見込客に、いきなり製品情報をアピールしないこと。それは対面営業でも同様だろう。ニーズがあるかわからない見込客に対して、いきなりパンフレットを出して製品説明をしても、耳を傾けてもらえない。そこで、下記のように段階を踏んで情報を伝えていくことで、効果を上げたという。
(0)世の中のトレンドを伝える
(1)あなたの悩みを解決するにはMAツールというものがある
(2)なぜ今、MAツールが重要だと言われているのか
(3)中でも、なぜ「SATORI」なのか
オフラインの「not今すぐ客」には、大人数で行われるデジタルマーケティングの共催セミナーに参加してもらい、その後少人数の単独セミナーへと誘導している。共催セミナーではMAツールの重要性について伝えるにとどめ、単独セミナーになるとようやく「SATORI」についてとことん伝えるようにしている。こうした「そのうち客向け」セミナー施策の副次的メリットとしては、見込客とのコンタクト数を考えたときに、営業担当が一人で地道に伝えるよりも11倍の見込客に有効性を伝えられることだと豊川氏はいう。
一方、オンラインの「not今すぐ客」には、オウンドメディアやリターゲティング記事広告の配信によって、認知から興味喚起へナーチャリングすることに成功した。
事例4:継続的に見込客を増やす方法
最後に4つ目の例として、継続的に見込客を増やすために「そのうち客」を集める方法について上げた。
BtoB企業にとって、オフラインで最も有効なのは展示会だ。SATORIの場合は、展示会を「そのうち客」を増やす場と位置づけ、興味喚起のために「MAツールについて伝えるマンガ」等をノベルティとして渡している。一方、オンラインではブログや外部サイトなどでコンテンツマーケティングを行い、「最新マーケティングハンドブック」や「国内BtoB企業における マーケティング活動実態調査レポート2019」といったトレンドやノウハウ情報などを提供し、勉強したいと考える「そのうち客」に、学びたいと感じる心を後押しするコンテンツを届けるようにした。
匿名の「そのうち客」を実名化する際に、SATORIマーケティングブログの「コンテンツマーケティングとは」「インサイドセールスとは」などの記事を読んでいる勉強熱心な匿名客に、「マーケティングの最新情報を伝えます」というポップアップを表示。メールマガジンへの登録やホワイトペーパーのダウンロードを促し成果を上げている。いまや「そのうち客」を獲得する上で同社にとって欠かせないコンテンツだ。
MAツールはあくまでも「アシスタント」
MAツールを導入すると「楽になる」と勘違いしている担当者は多いというが、豊川氏はそれは「オートメーション」という言葉が与える誤解だと考えている。ホットな見込客がWebサイトを訪問した際、マーケティング担当者がパソコンの前にかじりついて24時間対応するのは不可能だ。そこを代わりに対応してくれる「アシスタント」がMAツールである。
「マーケティングオートメーションは、担当者自身が目的をもって、戦略的に使いこなしてこそセールス活動に効いてきます。むしろ『マーケティングアシスタント』と呼んだほうが適切なくらいです」(豊川氏)
とはいえ、最初からMAツールを自在に使いこなすことは難しいだろう。「SATORI」では、カスタマーサクセスチームが「MAツールでできる20のコト」といった冊子を配布したり、利活用セミナーやオンラインサポート、ユーザー会といった手厚いサポートを用意している。MAツールは導入から3ヵ月が重要。そこでつまずいてしまわないよう、「伴走サポート」などの取り組みも始め、顧客の目的達成に寄り添い、貢献しようと意気込んでいる。