五輪で本来実施すべきは“骨太なレガシー”構築
筆者は、五輪はプロモーションの1つではなく、大会を梃子とした“骨太なレガシー”構築に最も意義があると考えている。そして、骨太なレガシーを構築するためには少なくとも大会開催の“3年前”から準備をすべきである。
ここで言う「レガシー」とはマーケティング活動の4Pで言うところのPromotionのみならず、Product(商品)やPlace(チャネル開発)なども含まれる。もっと言えばマーケティング領域を超えたサプライチェーンやファイナンスも入ってくるだろう。
五輪で骨太なレガシーを構築した企業例として、英BBCの事例を紹介しよう。当時、ネット利用拡大の影響から英国ではテレビ離れが進み、テレビ業界のデジタル変革は急務となっていた。英BBCは事業戦略の核である「世界を牽引するメディア企業」として、他社に先んじてオンライン事業を推進させるため、2008年の北京大会でiPlayer(ネット経由テレビ・ラジオ)を開始した。
同社はネット同時配信チャンネル開設に取り組むも、当時は各部門サービスの乱立など、様々な課題があった。そこで、2009年にネット人財を「Future Media」という部門に集約。同部門を中心に、全体品質やUX/UIの統一感の課題を解決していった。また強力なチェンジマネジメント改革を同時に行った。
その結果、2010年のバンクーバー大会ではBBC全体で統一感あるデジタルサービスの提供を実現。2012年の自国ロンドン五輪では「DigitalOlympics」をキーワードとして全競技をネット中継するなど、テレビ・ネット・モバイルなど全方位的なデジタル戦略の実現に成功した。
ロンドン以降の五輪デジタルサービスはリオ、平昌ともそれほど変わっておらず、むしろ一部コンテンツを効率化している。それにもかかわらず、デジタル配信のUUは、2012年のロンドン五輪が3,460万、リオ五輪が6,830万と増加を続けている。さらにリオ五輪時のテレビ視聴者数は4,524万となり、ついにデジタルがテレビを上回るほどになった。その背景には、五輪を目標に培われたデジタル組織やデジタル基盤などを、通常時にも利用し、4年以上かけてサービスを磨き上げてきたことがある。
このように、英BBCは見事なデジタル変革を、五輪を梃子にして成し遂げたのである(つまり、マーケティング活動でいうProduct/Placeについて大きく変革した)。