UXインテリジェンスにおける3つのケイパビリティ
有園:では、精神と対になるケイパビリティというのは?
藤井:UXインテリジェンスを発揮する際の能力を分解すると、AIを使いこなすこと、データを使いこなすこと、そして人の心を理解すること、の3つがあると考えています。他社と協業して、自社に足りないケイパビリティを補完し合うこともあると思いますが、やはり先ほどの精神論だけでは「データとUXを回してビジネス成果につなげる」ことはできない。
膨大なデータを扱うには、当然データインテリジェンスが必要で、その分析にはAIが不可欠です。また、そこから顧客の姿を解像度高く読み解いてUXに落とし込むには、人を見る、ヒューマンインテリジェンスが必要。データが貯まるとUXが改善され、するともっと利用されてデータが貯まり、もっとUXが向上してスティッキネスなサービスになっていく。それが、ビジネス成果を生むんです。

有園:これも、とても腑に落ちる話です。特にデータとAIのケイパビリティ以上に、きっとヒューマンインテリジェンスが重要ですよね。2018年、ちょうどGDPRの議論が起きていたころ、ブリュッセルで行われたデータの国際会議のテーマがそもそも「倫理」だったんです。基調講演では、米Appleのティム・クックCEOがまさに「AI開発やデータ活用も進めるが、人に対する洞察のほうが大事だ」といったことを語りました。
データを活用したUX改善は経営課題
藤井:僕は中国に住んでいて、実際に中国のDXがとても先進的なので中国の話が多くなりますが、グローバルで見ても有園さんがおっしゃった潮流は確かに強まっていますね。
方や、日本は残念ながらデータ活用とUXがひもづいていないので、データの議論でヒューマンインテリジェンスが語られるステージにすら今到達できていない。やはり相当に遅れていると思います。今回ぜひお伝えしたいのは「UXは経営課題である」ということです。UXはあまり大きな話だと思われていないですが、「違うぞ!」と声を大にして言いたい。
有園:同感です。今日のお話しを聞いて、ますますそう思いました。また、最近GaaS(Government as a Service)という言葉も聞かれるようになって、エストニアが好例として注目されていますが、UXは大事だぞ、とお役所関係にも知ってほしいですね。

藤井:たとえ優れたサービスでも、UXがイマイチで広がらない例は本当に多いと思います。僕、よく日本からのゲストをともなって視察をするんですが、僕が会社から平日18時にDIDIを使って出かけようとすると、行先候補のトップに必ずスーパーのフーマ―を挙げるんです。この条件だとフーマ―と覚えていて、別の日時や場所からだとまた違う候補を出してくる。そうなるともう、違うタクシーサービスは使わないですよ。
そのあたりが本当に、有園さんが冒頭で触れられたサービス・ドミナント・ロジックだな、と思います。その状況下で企業の生き残りを決めるのは当然、ユーザー数×継続率ですが、継続率を決めるのはほとんどUXですから。
有園:そのことを、経営者は心底理解しなければいけないですね。冒頭で触れたように、もしこの世界がわからない、ピンとこないなら、わかる人に権限移譲しないと生き残れない。
藤井:言いづらいですが、経営者や現場が喫緊の課題だと肌で感じていても、間の層が動かないこともしばしば見られます。そんな状況が少しでも変わればと、今回のUXインテリジェンスしかり、僕も引き続き発信していきたいと思います。
有園:これからも注目しています。今日は示唆に富んだお話、ありがとうございました!