「Say & Do(有言実行)」じゃなきゃ意味がない
白石:今、各企業が発信するダイバーシティに関するメッセージは、たとえば「働く女性を応援します」「多様なバックグラウンドの人材を採用します」「環境に配慮しています」などという表面的なものにとどまり、その企業の強みにリンクしていないものが多いように感じています。だからメッセージは響かないし、時には炎上してしまうこともある 。

鈴木:そうなんですよね。資生堂が素晴らしいのは、このプロジェクトをアピールのためにやったわけではないということです。クライアントによく言うのは、「何を言うかじゃなくて、何をするかが大事ですよ」ということ。有言実行、「Say & Do」じゃなきゃ意味がない。やるならやると宣言する、企業としての姿勢を示す、そしてきちんと実行する。その重要性を資生堂は理解されていますから。
このプロジェクトでは資生堂の示すスキンについての考え方や姿勢を世の中に示しながら(Say)、同時に子どもたちにも体験や学びの機会を提供する(Do)。この2つが両立できたことが良かったのだと思います。
そしてこの「Do」の部分で重要だったのは、資生堂のインハウスクリエイティブチームと「一緒に実験する」という姿勢でした。本当に一人ひとり違う色のクレヨンができるのか、子どもたちにどんな授業をすればいいのか。そのすべてが実験だったし100%成功するかわからなかった。
白石:共に新しい取り組みに挑戦するというスタンスも、資生堂のパーソナリティのひとつですね。反響はいかがでしたか?
鈴木:資生堂の広報には、取材依頼や学校からの問い合わせが相次いでいると聞いています。メッセージを受け取った方々から、反応がダイレクトに企業にも届いているようです。
考え方のベースにある「クリエイティビティ」と「テクノロジー」
白石:ここからはR/GAについてもう少し深くお伺いさせてください。私は2017年のSpikes Asiaのデジタルクラフト部門でグランプリを獲ったR/GAシドニーの『Through The Dark』(Google)のクリエイティブがとても印象的でした。ガンを患った子どもとその親、双方の視点で描かれたインタラクティブなアニメーションに、新しい考え方を感じ素敵だなと。だからR/GAが2017年に日本に進出した時から、とても注目していたんです。
鈴木:R/GAは基本的にコンサルティングを主としている会社なので、作業時間も長いし、アウトプットが世に出るまでそこそこ時間がかかります。クライアントとも中長期的な視点で話をすることが多いですね。
考え方のベースにあるのはクリエイティビティとテクノロジーです。一般的な広告制作のように、ただCMを作りましょう、デジタルのクリエイティブを作りましょうということはしません。たとえば化粧品メーカーでスキンケアカウンターを手掛けるなら心理学的、人間工学的なアプローチからはじめて、店舗全体の空間エクスペリエンスやカウンターでどんな体験ができるかも設計します。建築も、デザインもと、根本的なところからすべて手掛けるんですよ。それによって、新しいソリューションを生み出すことができます。
白石:2019年に横浜の資生堂グローバルイノベーションセンターでローンチした『beyond time(時を超えて)』 というデジタルタイムトラベルインスタレーションも、似たようなアプローチですね。
鈴木:そうですね。3D顔シミュレーションエンジンを僕たちが独自開発して、10~80代の顔をリアルに再現して、向かい合った夫婦や親子などに過去・未来の互いの顔立ちを見てもらい、それによって会話が生まれるという体験を提供しました。
白石:こうしたプロジェクトを行う時に、どんなことを大切にしているのですか。
鈴木: 「Human Centric」であることです。僕たちは「To create a more human future」というカンパニーミッションを掲げていて、結局何をやっているかというと「人間とブランドをつなげる」ということなんです。人間味のあるものを作ることこそに、価値があると思うので。