マーケターのやりがいを作る、“飽き”と成長の関係
とはいえ、経営者の求める要素を理解できても、マーケター自身がやりがいをもって仕事に取り組めなければおもしろくない。中村氏は“飽き”と“成長”の関係を取り上げながら、次のように述べた。
「人間は生物学的に“飽きる”ことで対応力を拡大し、生存力を向上させるといわれます。そのため既存の仕事に飽きると転職してしまう傾向があるのは、成長機会を求めていることでもあるわけです」(中村氏)
裏を返せば、新しい活動にどんどん取り組んでいけば飽きることはなく、それによって成長していけば、さらにチャレンジしたくなる好循環が生まれるはずだ。実はデジタルとアナログを融合するデジアナマーケティングにおいては、経営者の求めに目線を合わせることが、マーケター自身の成長を生み出すことにもつながっていくのだという。これまで一方のチャネルを担当していたマーケターにとっては新たな領域に踏み出すチャンスになり、新しい発想を試す余地も多くある。
「“マーケティング道”において、これだけをやればいいというものはありません。市場や環境、商品やタイミングと、変数が非常に多くて変化が大きいので、マーケターに求められるものも変わり続けます。しかし、だからこそマーケティングは楽しい。今の環境も、数年もすればまったく違う新しいものになっているはず。それを楽しみながら成長していけるのが、醍醐味なのではないでしょうか」(中村氏)
デジタル時代に際立つアナログの価値
2000年代までは、電話やカタログなどによるアナログマーケティングを中心に、顧客との接点を作るやり方が主流だったものの、投資対効果が見える有用性からデジタルマーケティングに移行していき、現在はデジタル優位の状況にあるといえる。
ところが各社が多くのデジタル施策を打ち出すようになったことで、デジタルだけでは顧客にメッセージが届かない、届いても行動を変えてもらうまでに至らないといった問題が発生するようになっていると中村氏は明かした。
「昔ほどデジタル施策の効果が出にくくなったことを感じているマーケターも多いはず。デジタルには接触頻度が高いというメリットがありますが、消費者の心を動かすためには他にも様々な工夫が必要です」(中村氏)
そこで今改めて見直されるのが、アナログマーケティングの活用とその効果だ。アナログには手間やコストはかかるが、接触時間が長いという強みがある。
これに加えて消費者側も、モノより体験にお金を使うことを望む傾向が強くなり、購入や利用に関わる体験を価値と捉える人も増えてきた。特にデジタルネイティブと呼ばれる世代は、より一層体験を重視している傾向がある。
「多くの情報を得られる状態にあっても知識や経験がないため自分で決めにくく、自らの決断を後押ししてもらいたいと考える消費者は少なくありません。こうしたケースでは、アナログな体験が購買に対して良い影響を与えます」(中村氏)
中村氏が紹介したコーネル大学の実験によると、まったく見知らぬ人に同じセリフでコミュニケーションを取る場合、メールで聞くのと、面と向かって聞くのとでは、成功率に大きく違いが生じ、対面の場合はメールの34倍も効果的だという。さらに、イベントに参加した人のうち7割以上が「イベントは購買体験に好影響を与える」と回答した調査結果もある。
アナログ施策の中でも、中村氏が勧めるのはセミナーだ。
「セミナーを開催した場合、その内容を活かしてレポート記事などのコンテンツを制作することもできるため、施策に広がりが生まれます。さらに発信していく側の人間になることが、マーケターの成長につながっていくという価値もあるのです」(中村氏)