マーケターと営業の連携を阻む3つの問題
昨今MAツールは多くの企業が採用するものとなった。国産MAツール「SATORI」を提供するSATORIのマーケティンググループ長である豊川瑠子氏は、「市場としても伸長しており、一定の効果を感じている企業が多いが、他方で組織的な問題によって活用しきれていないという悩みを抱える企業も存在する」と話す。
特にマーケティング部門においては、営業部門との連携に課題を持つ企業が多い。このマーケティングと営業の連携が上手くできていないことで、MA導入後に問題が発生するケースがあるのだという。たとえば次のような問題が挙げられる。
問題1は、MAを導入したマーケ部門が、従来名刺情報を管理してきた営業部門にリードの共有を求める際、営業部門が共有を拒むというもの。マーケ部門としてはMAにリードをインプットすることでホットなリードを抽出したいと考えていても、営業部門ではマーケ部門に「勝手なアプローチをされたくない」という考えに至ってしまうことがあるという。
続く問題2は、営業部門においてSFAをはじめとする、使用するツールが多くなっており、ツールごとの入力作業などが負担になる中で、新たなツールの導入/活用に対して抵抗を感じやすいというものだ。そのため、より明確な必要性・メリットを求められることが多くなっている。
問題3は、リード獲得にKPIを持つマーケ部門と、受注にKPIを持つ営業部門が同じツールを活用することになったときに、合間の商談やナーチャリングはどちらの担当なのか、フェーズにおける責任の所在があいまいになるというもの。その結果、せっかく獲得したリードが放置されてしまうのだ。
分断を防ぐ「営業支援の意識」と「組織共通のKPI」
豊川氏は、この3つの問題を解決する方法を、事例を交えて次のように解説する。
まず問題1の「リードを共有してもらえない」に対し、あるBtoB企業は「マーケがやってみせる」ことで解決した。その企業では、マーケ側に共有された一部のリードからMAのシナリオに基づいてマーケ自身でアポイントを取り、MAを使わずにアポイントを取る営業と商談化率を比較検証した。その結果、MAを使うことで高い商談化率を得られたことをきっかけに、営業がマーケにリードを預けることに納得。MAの仕組みを信用して使ってもらえるようになったという。
問題2の「ツール導入/活用に抵抗」が弊害となっていたある企業では、「まずは営業部門の“一人”から巻き込んでみる」ことからスタートし、解決に至った。営業部門のリーダー格1名を巻き込み、実際にMAで見つけ出した営業先にアプローチしてもらい効果を検証した。その結果、商談化率がそれまでの15倍となる成果が出たため、その成果を他営業メンバーの前で第三者に表彰してもらい、巻き込んだメンバーからMAの仕組みを採用したことを話した。これにより営業側から声がかかるようになったという。
「ポイントは、マーケが何か提供することで小さな『良かった!』『助かる!』を沢山作ること。私自身もマーケが提供できるメリットとして、リードをいち早くインポートすること、少しでも商談が楽になるようになるべく多くの情報をメモに残すこと、まずは既存顧客に動きがあったときに通知メールを出すところから始めることを意識しています。営業が動きやすく、継続的な受注の獲得につながる支援をどれだけできるかが重要なのでは」と豊川氏は話す。
問題3の「リードの責任所在」に関しては、SATORI自身が行った「組織とKPIの見直し」の例が紹介された。まずは責任の所在を明確にするために、“案件数”部分について専任でKPIを持つ組織としてインサイドセールス部門を設立。自分たちが持つKPIに加えて、となりの部門のKPIを一緒に持つことで連帯感を強めていったという。
たとえば、マーケ部門のメインKPIは「リード獲得数」だが、となりのインサイドセールス部門が持っている「商談獲得数」についても一緒に担っていく。さらにインサイドセールス部門は、営業部門が持つ「受注数」も一緒に担うという具合だ。
「組織全体で共通のKPIを常に意識できる状態にしておくと、縦割りで役割を分断せずに成果を出すような横の連携ができると実感しています」(豊川氏)
連携による産物「キラーコンテンツ」
こうした問題を解決し、連携を進めたことで生まれる産物のひとつに、「キラーコンテンツ」がある。
キラーコンテンツとは、契約もしくは購入に至る直前の買い手が欲するコンテンツのこと。MAを活用して継続的に成果を出すためにも必要不可欠なものだ。
企業が届けるコンテンツは、買い手の購買プロセスと、ターゲットをどうしたいかという目的にあわせて内容を変える必要があるが、キラーコンテンツは購買意欲を測るためのコンテンツとなるので、「今すぐ客をあぶり出す」のに有効と言える。
ではどうやってキラーコンテンツを見つけるのか。これについては、「(1)データからあたりをつける」「(2)営業メンバーに聞いてみる」の2つの見つけ方があると豊川氏は解説する。
(1)に関して、豊川氏はSATORIでの実践を例に挙げた。一定期間でコンバージョンしたユーザーの中で、特定のコンテンツを見た割合を調べたところ、コンバージョンした半数以上がそのコンテンツに接触していたという分析結果が出てきた。
「コンバージョンした人が直前にどういうコンテンツを見ていたのか、多く見られているコンテンツは何なのかはGoogle Analyticsなどでわかるため、そこからあたりをつけて仮設立てすることができます」(豊川氏)
もうひとつの方法(2)は、営業の生の声をユーザーにとって刺さるコンテンツづくりに活かすものだ。豊川氏によれば、SATORIのキラーコンテンツも、営業メンバーの声から導き出されたものだという。契約に至った顧客が購入直前に欲していたコンテンツが何かをヒアリングしたところ、もれなく他社との比較表であるとの返答だったことから、比較表を制作し、Webサイト、メニュー直下に置くことを実践。実際に効果を発揮し、キラーコンテンツになったのだという。
キラーコンテンツの効果は顕著にあらわれ、見た人と見ていない人の商談化率にどの程度影響があるかを調べたところ、他のコンテンツに比べて約8倍の違いが出た。
見込み顧客は「今すぐ客」「そのうち客」に分ける
MAを導入すると、成約に近い位置にいる「ホットな見込み顧客=今すぐ客」のあぶり出しに意識が向かいがちだが、そこに重点を置いてしまうと徐々にリードが枯渇していく。
そのため将来的に顧客になり得る人にもきちんとコミュニケーションを段階的に取っていく視点を持つことが、MAを活用する上で大事になる。
SATORIではそうした将来の見込み顧客を「そのうち客」と呼び、積極的に集め、コミュニケーションしているという。
不動産を例に挙げると、「今すぐ客」は今物件を検索している人。対して「そのうち客」は結婚や進学、就職など転居をともなう予定がある人だ。このようにイメージしてシナリオを組んでいく。
セッション後半には、MAを活用して「今すぐ客」と「そのうち客」にどうコンテンツを作り届ければ良いのか、SATORIにおける事例をもとに紹介された。
「今すぐ客」と「そのうち客」に効くコンテンツとは?
「今すぐ客」には、先述したキラーコンテンツを用意して、商談という次のステップにつなげていくことが求められる。
そのとき相手が匿名状態で電話やメールができない場合でも、MAを活用することでキラーコンテンツから商談につなげることが可能だ。SATORIのケースで言うと「比較表」を見たあとで料金ページを見てくれた際に、資料ダウンロードを促すポップアップを表示させることで、個人情報開示を促している。
またコンテンツを任意の箇所に埋め込む機能を使うことで、セグメント別に広告バナーを出し分ける(パーソナライズする)こともできる。
さらに外部ツールと連携できれば、顧客が見た閲覧データを活用して、リターゲティング広告に展開することも可能だという。実際の運用の手順は3ステップ。キラーコンテンツを用意して、「今すぐ客」を可視化。次に、「比較ページに180日以内で2回以上閲覧した人」などホットな条件を設定する。
該当者がいて、実名なら担当者に通知メールを、匿名ならポップアップ機能で情報を出す。こんなシナリオがMAだと簡単に実現でき、高い成果も得られる。
一方で「そのうち客」を集めるためには別のMA活用法がある。この顧客は、情報収集をしたいと思っている集団であるため、このときのキラーコンテンツはノウハウやトレンド情報になる。
SATORIの例で言えば、製品資料の代わりに最新マーケティングハンドブックや、興味が持たれそうなテーマで調査をした結果、調査レポートがそれにあたる。これらを制作し、ダウンロード資料としてWebサイトに掲載している。
オンラインであれば他にも、「そのうち客」がWeb検索してたどり着く場所に記事を作ることで集客したり、自社で運営するブログの記事を見た人に、ノウハウ資料のダウンロードやメルマガ登録をポップアップで案内することで、個人情報の開示を促したりもしているという。
またBtoBにおいて有効な施策としてイベント関連の施策も例に挙げた。
中でも展示会は、沢山の「そのうち客」との接点づくりに有効な場。SATORIの場合は、ここでマーケティング担当者と接点を持つために、業界の著名人にインタビューして記事にまとめたタブロイド紙やハンドブック、漫画コンテンツなどを会場で配布している。
ひとつステップを進んだときに次のメッセージを届ける
さらに豊川氏は、「そのうち客」の興味喚起をして動かすためのMA活用法を紹介した。このステップで必要なコンテンツは、段階を踏んで“必要性”を伝える啓発コンテンツで、導入事例などが相当する。
まず認知系のコンテンツを出して、クリックしてくれたら今度は興味を深めてもらうためのコンテンツを提示というように、顧客がひとつステップを進んだときに次のメッセージを届けることが大事だという。
SATORIでは、アプローチの手段としてプッシュ通知やメールを使い、情報を段階的に届けている。またオフラインでは共催セミナーを開き、まずはSATORIについては語らずに、MAの有効性を感じてもらうような内容を伝えている。そこで興味を持った人には少人数制の単独セミナーに来てもらい、商談に申し込んでもらうというようにセミナーにステップを設けているのだという。
最後に豊川氏は「継続的に成果を出すためには、ツールだけでなく組織もきちんと見直し、障害や問題があればクリアにすることが必要不可欠です。営業とマーケの連携やキラーコンテンツのつくり方も意識してもらい、MAをフル活用いただければ」とまとめの言葉を述べ、セッションを終えた。