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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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定期誌『MarkeZine』特集

データ活用はユーザー主導の時代へ Cookie規制とその先に起こること

1stパーティデータの収集は解決策になり得るか

 このような状況の中、まず行うべきは法律の改正に向けた自社Webサイトの調査やプライバシーポリシーなどの見直しです。またブラウザのCookie制限に対する広告施策としても変化に対応していくことが求められます。3rdパーティCookieを用いた広告などの施策は縮小していくと考えられ、DSPなどの広告配信事業者は、Cookieを用いないコンテンツマッチ、コンテキストマッチなどのメニューが主流になるでしょう。また、データを用いたターゲティング広告については、1stパーティデータの利用が求められるため、エンドユーザーとの接点を直接持つメディアの優位性がさらに増すことになります。

 広告主においては、1stパーティデータを用いることのできるメディア(検索連動型広告やSNSなど)への予算配分がさらに増えていくことが予想され、また広告主が独自でメディアを運営し、そのメディアにエンドユーザーを集め、自社でデータを1stパーティデータを集める形でのコンテンツマーケティングを進めていくことが考えられます。パブリッシャーサイドでは、1stパーティデータの価値が相対的に上がるため、プレミアム枠での1stパーティデータを用いた広告メニューの単価が上がりますが、SSP枠の価値が相対的に下がってしまうことが考えられるため、記事ごとのカテゴリー整理、正規化などコンテンツマッチに対する最適化をさらに進めていくことが必要になると考えられます。

 ただし、1stパーティデータを比較的自由に使えるのは“今だけ”になる可能性もあるということに、留意が必要です。GDPRにおいては1stパーティデータの取得や利用についてもエンドユーザーの同意が求められており、米国や日本においても、データの利用について、拒否できる仕組み(オプトアウト)を行う仕組みの提供が自主規制団体によって求められるようになっています。法律での規制を待たず、倫理的なデータ活用へのブランディングも含めた対応として、コンセントマネジメントプラットフォーム(以下、CMP)と呼ばれる同意管理システムのWebサイトへの導入が徐々に進められています。CMPはWebサイトでのデータ取得を訪問者がコントロールできる仕組みです。GDPRではデータの取得時に同意が求められているため、ヨーロッパにおいて急速に普及しました。日本や米国においてもヨーロッパからアクセスのあるWebサイトなどがCMPの導入を進めていますが、今後は法改正への対応として、Cookieと個人情報を結びつける際の提供先での同意を取得するためや、Cookieを広告用データとして利用するための自主規制団体の要請による対応、よりプライバシーに配慮したWebサイトとしてブランディングするためなど、徐々に日本でも導入が進んでいくと考えられます。

 また将来的には、Privacy Sandboxや、その他の広告用データの利用についてもCMPなどの同意管理システムが必須になることも考えられ、単に1stパーティデータの収集を進めるだけではなく、エンドユーザーからのデータ利用に対する同意の管理も同時に進めることが必要となります。

データ活用はユーザー主導へシフトする

 このように、企業が取得できるデータが限られてくる中で、エンドユーザーが自らの意思でデータを提供するような仕組みが注目されています。たとえばエンドユーザーが自らの意思で提供するデータを「ゼロパーティデータ」と呼び、将来的には、ゼロパーティデータを提供してもらうことによって、その人に合わせた広告やサービスを企業が提供していく動きが見られています。

 また日本においては「情報銀行」や「パーソナルデータストア(PDS)」と呼ばれる仕組みが注目されています。個人が自らデータをコントロールし、自らの意思で企業にデータを提供する仕組みとして、総務省と経産省が「情報銀行」の認定スキームを作って推進しており、多くの企業が参入を表明しています。情報銀行の認定制度は2018年12月から日本IT団体連盟によって開始され、2020年3月現在では、事業計画段階の認定を行う「P認定」は4社、事業化されたサービスの認定を行う「通常認定」は1社が取得している状況です。筆者が代表を務めるDataSignが運営する「paspit」というサービスでは、企業がエンドユーザーに対して、取得したいデータと利用目的を提示し、エンドユーザーが自らの意思で承諾をすることで、企業が様々なデータをゼロパーティデータとして利用できる仕組みを提供しています。たとえば、化粧品会社が「あなたに合わせたスキンケア商品をおすすめするために、あなたの肌の状況や健康に関する情報を教えて下さい」というオファーをエンドユーザーに送り、承諾してもらった上で、化粧品会社はそのデータを取得、分析し、そのエンドユーザーに最適な商品をレコメンドする、という形となります。今までのターゲティング広告とは違い、より深いデータを個人の意思によって取得できるため、よりエンドユーザーの満足度が高くなるサービスやレコメンドを提供できることが期待されています。

 ここまで、Cookieに対する規制やブラウザによる制限、Privacy Sandboxや情報銀行など、今後の対応について述べてきました。データを活用することで、新たなビジネスを生み出していくことは歓迎されるべきことであり、世の中にとって必要なことです。AIをはじめ、データを活用したサービスは今後もさらに増えていくと考えられます。

 しかし規制や制限への対応というスタンスではなく、その施策やビジネスが個人にとって本当に利益になるかどうか、という視点が重要になってきます。データの流通・活用によって、個人の権利が侵害されるのではなく、個人が恩恵を受けられる世の中にしていくためには、データを利用する企業が法律を遵守したり、制限に対応したりするというだけではなく、そのビジネスが倫理的であるか、個人の権利、利益を侵害するものではないかということを念頭に置くことが必要なのではないでしょうか。

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この記事の著者

太田 祐一(オオタ ユウイチ)

一般社団法人MyDataJapan 常務理事/株式会社DataSign 代表取締役社長
DMPやMAツールなど企業主体でパーソナルデータを活用するシステムを開発してきたが、個人がコントロールできない不透明な状態でのデータ収集・活用に限界を感じ、データ活用の透明性確保と個人を中心とした公正なデータ流通を実現するため、D...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/26 17:43 https://markezine.jp/article/detail/33190

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