※本記事は、2020年5月25日刊行の定期誌『MarkeZine』53号に掲載したものです。
テレビとインターネットは対立の関係ではない
日本テレビ放送網株式会社 営業局 営業推進部 主任 巽直啓(たつみ・なおあき)氏
2001年に日本テレビに入社、営業局へ。2008年までスポットセールスを担当し、報道局に異動。報道記者として、経済部、社会部などで活動する。2013年より、再び営業局に配属。スポットセールスの傍ら、SASの構想を進め、2018年に前身となるASSをローンチした。SASプロジェクトの中心人物として、サービスの開発、啓蒙活動などに取り組む。
――先日、「2019年日本の広告費」が発表されました。インターネット広告費がテレビ広告費を上回ったことについて、どのように捉えていらっしゃいますか。
エポックな出来事ですが、ネットの普及を考えると当然だと思います。海外では、同様のことが2018年度に起きていましたので、それほど驚きはありませんでした。「テレビメディアが凋落している」とも捉えられていますが、単純にテレビとインターネットを比較するのは違うと考えています。そもそもテレビにおいてCMに充てられる枠は、総放送時間の18%と民放連基準による総量規制があり、それ以上のCMが放送できません。自由に売り場面積を増やせるインターネットと違うわけです。さらに、TVerのようなテレビメディアを起点としたサービスのインストリーム動画広告は、放送局の収益ですが、現状の調査ではインターネット広告売上に含まれています。また、広告露出が必ず目視できるテレビと、アドフラウドが取り出されるインターネットは、広告のトランスペアレンシー(透明性)も異なるので比較する際は注意が必要だと思います。
――先の調査によると、インターネット広告費の伸びは、運用型広告の成長が大きいです。マスマーケティングがメインのテレビ広告と、細かなターゲティングができる運用型広告では、そもそもの目的も違ってきますね。
はい、そうした背景の違いもあるので、「テレビとネットを並べて広告費の差を語るのが正しいのか?」という疑問はありますね。もはや、テレビとインターネットは対立の関係ではないのです。動画配信サービスへのコンテンツ提供など、配信の世界でビジネスを始めたように、テレビ局が時代に合わせて変わり続けていけば、インターネットを過度に恐れる必要はないと思います。
一方で広告主は、ROIやROASなど、マーケティングの費用対効果をより注視されるようになりました。データドリブンで高速PDCAを回し、広告効果を高めていく動きが強まっていると感じます。広告主のニーズや目的のために、CMはいろいろな課題をいただいていますから、応えていかなければなりません。
――CMが抱える課題とは、具体的にどのようなことでしょうか。
セールス方法をおさらいしますと、地上波は番組を提供していただくタイムセールスとGRPを指標として取引するスポットセールスがあります。これらは、1970年頃に確立し、50年近く続いていることからもわかるように、長年支持をいただいているセールス方法です。しかし、次第に広告主のニーズを満たしきれなくなった面も出てきています。たとえばタイムは、6ヵ月・3ヵ月単位で販売しており、「2週間だけ放送したい」というニーズに応えられません。また、固定費となるため、流動性を持たせた予算組みをされる広告主は、スポット中心の出稿が多くなっています。
一方のスポットは、需要と供給のバランスに課題があります。広告の需要期は集中するので、2週間の出稿をいただいても、1週目と2週目の需給バランスが大きく違う場合に、広告主が本当に欲しい枠には入らず、希望を満たさない案にならざるを得ないケースも出てきてしまいます。「PDCAを回すために、スポットを流すポジションを柔軟に変えたい」とご希望をいただくのですが、総量規制の点から枠が限られ、需要期の改案は難しく、広告主のご希望とプランニングに齟齬が起きています。さらに、アクチュアル(実際の視聴率)の問題が根強くあります。作案時のGRPは過去の視聴率の実績値を参考にしますから、実際の放送では発注分のGRPを超えることも、下回ることもあるのです。これらは、テレビメディアにとって解決が難しい長年の課題です。
しかし、2008年のリーマンショックを境目に、RTBやDSPなどのアドテクノロジーが誕生し、海外では先んじてテレビ広告セールス方法が高度化しました。僕もニューヨークやヨーロッパへ視察に行き、その合理的でスポンサーニーズにあった海外の広告セールスを目の当たりにして、「タイムでもスポットでもない新しい売り方を模索するべきかもしれない」と刺激を受けたのです。それから、2年ほど構想と設計を経て、2018年にローンチしたのが、SASの前身であるASSでした。