トレンドも追わない 答えはすべて、お客様の中にある
西井:STYLE DELIは、Never Say Neverの新しいチャレンジだったんですね。
齊藤:はい。でも、最初の2年間は、なかなか芽が出ませんでしたね。お客様に安さではなく、ブランドとして選んでいただくことが絶対に必要でしたが、商品の1つひとつに付加価値をつけ、ブランドをご理解いただくには、時間が必要です。セールもしないから、在庫もたまる一方で、我慢の時期は続きました。
西井:では、どのようにして認知を広げ、ブランディングへつなげたのでしょうか。
齊藤:1つはブログマーケティングです。プロデューサーがブログを始めて、お客様とコメントをやり取りし、距離を近づけながら、「女性は皆、もっと自信をもって輝いているべき」のメッセージを発信していきました。現在も、STYLE DELIブロガーと呼ばれる日替わりメンバーたちが、記事を毎日更新しています。
西井:ちょうど、ファッションのスタイルが、雑誌やコレクションからブログやSNS起点で作られ始めていた時期ですよね。
齊藤:はい。そのうち、シーズンにいくつかのヒット商品が登場してきたのです。そうしてSTYLE DELIがたどり着いたのは、トレンドを追わないスタイルでした。「答えはすべて、お客様の中にある」とプロデューサーたちが気づき、お客様が本当に欲しいファッションを提案する思考にシフトしたことが大きかったです。「社内に諦めムードが漂う中、2年間よく諦めなかった」と、そこは自分を褒めてあげたいですね(笑)。
西井:ファストファッション時代の成功体験を捨て、数年かけて独自の勝ち筋を見つけたのですね。現在はどのようにお客様の声を聞き続けているのでしょうか。
齊藤:ブログなどでコメントをいただくほか、カスタマーサポートのコンシェルジュデスクが、丁寧にフィードバックを受けとめています。展示会や受注会などのリアルイベントも行い、直接お客様の声を聞く機会もあります。
また、プロデューサー自身にもスタイルやファッションの悩みがあり、お客様の悩みに共感しやすいのだと思います。お客様の声と、そのお客様のインサイトを理解したプロデューサーの感性で、ものづくりをしています。

商品を紹介している(赤枠は編集部加筆)
テキストによるブランドメッセージの発信が、リピートの源泉に
西井:ファッション業界にあった企業視点の当たり前を、お客様視点に変えた独自路線で、STYLE DELIは成功してきたのだと感じます。Webサイトも、アパレルを扱っているのにテキストのコンテンツが多く、意外性があります。
齊藤:初めてのお客様へ向けた、6,000文字のメッセージですよね。ブログからお客様との交流が始まったSTYLE DELIでは、文章で思いを届けるコミュニケーションが適しているのだと思います。

齊藤:ブログでの商品紹介も、「気になるところをカバーしたい、でもおしゃれをしたい」というお客様の気持ちを掬い取り、本当にうまく表現していると思います。
西井:テキストは、その場の1回のコンバージョンには効かないかもしれない。でも、きちんと読んでくれたお客様は、ブランドの思いを深く理解できます。すると誰かにスタイリングを褒められたりしたときに、「このブランドはね……」と裏側を話すこともできますよね。「誰かに語れるブランドである」というところが、LTVに効いているのかもしれませんね。
齊藤:はい。お客様が、ブランドの思いをポジティブに捉え、また買いたいと思ってくださるからこそ、高いリピート率につながっているのだと思います。現に、ファストファッションとは異なるレベルのLTVにそれが表れていますし、他のブランドでもInstagramを中心に、売ることよりも伝えることに重点を置いた発信を心がけています。
お客様との密度を高めれば、売上は伸びていく
西井:では、新規顧客の獲得や、既存のお客様とのロイヤリティ構築には、どのような工夫をされていますか。
齊藤:前提として、SEOや各SNSの運用広告、アフィリエイトなど、行うべきデジタルマーケティング施策は、しっかりと行っています。
その上で、お客様の感動を生むアプローチを大切にしています。たとえば、コンシェルジュデスクには独自の裁量権を持たせ、お客様からのご要望にできる範囲で答えるようにしています。お急ぎの方で倉庫から近距離ならば、バイク便でお届けするなどの対応を取ったこともあるんです。
西井:STYLE DELIならではの、お客様コミュニケーションを目指しているんですね。効率化や生産性の向上だけに、フォーカスをしていない。
齊藤:売上至上主義ではありません。以前は、売上や流通、他社と比較しての成長率などをKPIにしていましたが、それはSTYLE DELIらしさではないと考えが変わりました。
売上を伸ばした結果、お客様が離れてしまったら意味がないですし、ブランドのカラーが薄れては、本末転倒です。お客様との密度を高め、熱狂的なファンが増えれば、売上は伸びていくものです。
また、Never Say Neverがプロデュースするブランドは、カンパニー制のような立ち位置にあるんです。ブランド別の採算システムを自社で開発し、月次で部門・科目別に会計を出して、スピーディに次の施策を検討できるサイクルを作りました。これも独自のやり方ではないかと思います。