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マーケター必読!論文のすすめ

究極の製品差別化の糸口を「カスタマイゼーション」と「パーソナライゼーション」から紐解く【論文紹介】

インターネット広告のパーソナライゼーション

 製品・サービスのカスタマイゼーションと共に最近顕著なのは、インターネット広告のパーソナライゼーションであろう。インターネット広告は、マス広告とは異なり、閲覧者の閲覧履歴や購買履歴を解析して、ニーズ関連性の高い広告情報を選択的に提供することができるのである。

 しかし、現在、国を挙げて議論されているように、オンライン行動を業者がモニタリングすることには、プライバシー懸念があり、ここに、ニーズ関連性とプライバシー懸念のトレードオフが指摘される。このトレードオフ問題は、多くの広告学者によって取り扱われてきたのであるが、そこに新たな学説を展開したのが、竹内亮介講師(東洋大学)の論文(PDF)である。

 これまでの研究は、成長重視の「促進焦点型」消費者と安全重視の「予防焦点型」消費者に二分する傾向にあったが、著者は、安全重視の消費者の中には、自己の安全に貢献する製品に関する広告が選択的に提供されることを歓迎する消費者と、広告の選択的な提供そのものを安全ではない行為として忌避する消費者がいると主張した。このことを見誤ると、広告パーソナライゼーションが全くの逆効果になってしまうのである。

グローバル企業の国別カスタマイゼーション

 カスタマイゼーションという語は、グローバル企業が、現地適応化という意味で、国や地域ごとに異なるマーケティングを行うことを指しても使われてきた。そして、これは古いトピックであったが、Webサイトの国別適応という課題の浮上によって、最近、海外で再びホットトピックになっている。しかし、日本文化への適応化の議論はいまだ行われていない。そこに切り込んだのが、菊盛真衣准教授(立命館大学)と石井隆太助教(福井県立大学)の論文(PDF)である。

 著者が見出したことには、G・ホフステッドによる文化的価値観論の4つの次元のうち、日本文化が高い水準を示している「不確実性回避」と「男性性」という価値観が反映されるようにカスタマイズされた海外Webサイトにおいて、日本人消費者は、情報の探索や取得を容易に行うことができ、その傾向は、安全重視の「予防焦点型」消費者より、成長重視の「促進焦点型」消費者に顕著であるという。

 カスタマイゼーションおよびパーソナライゼーションという究極の製品差別化は、世界中のマーケターにとっての挑戦である。そして、かつてその最先端を走っていたのは、まぎれもなく日本企業だった。パナソニックサイクルの「POS(パナソニックオーダーシステム)」や、より有名なトヨタ自動車の「JIT(ジャストインタイム生産システム)」が、その代表例である。

 しかし、それから何十年もの月日が流れ、今やどれだけの日本企業が自身の主力製品のマーケティングにカスタマイゼーションやパーソナライゼーションを導入しているだろうか。多くの業界において、今や日本企業から学んだ海外企業のほうが盛んにマーケティングの個性化を行っており、ニーズを満たして顧客をワクワクさせることに成功してはいないだろうか。この記事が、また、この記事に登場する研究者による学術上の挑戦が、読者諸氏を奮起させる一助となることを期待したい。

注:この記事はJSPS科研費JP19K01965の助成を受けた研究(PDF)の紹介記事である。

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この記事の著者

小野 晃典(オノ アキノリ)

慶應義塾大学商学部教授。1995年 慶應義塾大学商学部卒業、同大学院商学研究科修士課程・後期博士課程修了。博士(商学)。慶應義塾大学商学部助手、専任講師、助教授、准教授を経て2010年より現職。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2020/08/03 08:00 https://markezine.jp/article/detail/33861

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