AI活用は「クリエイティブのワークフロー革新」とセット
これからのコンテンツ制作の進化と広がりを感じさせるデモの数々だが、これまで25年にわたってクリエイティブツールビジネスに携わってきたパブリックセクター事業本部 事業開発部 部長の阿部成行氏は「AI活用はクリエイティブ制作のワークフロー革新と同時並行で進めていくべきだ」と説く。

これまでコンテンツは広告やカタログ、Webとメディアごとに異なるコンテンツをクリエイターが一つひとつ完成形まで制作してきた。しかしこれからのワークフローは大きく変わってくる。
「これからはクラウド上のデータベースに写真や画像を大量にストックしておき、それらの『部品』を好みに応じて適宜組み立ててユーザーに提供するスタイルへと変化するでしょう。そのとき、私たちクリエイティブツール提供側も『Substance』のように布や肌など3D制作に必要なテクスチャーを提供してバリエーション生成に寄与したり、『Adobe Photoshop Camera』のように多数のレンズ(エフェクト効果)からボタン一つでユーザーに最適な表現を選べるツールを提供したりすることでサポートしていく必要があると思っています」(阿部氏)

写真が撮影できるモバイルアプリケーション。各レンズはそれぞれ異なるエフェクトをリアルタイムで施すことができる
それがこれからデータとコンテンツを融合するために必須のクリエイティブワークフロー改革と、阿部氏は言う。
そう考えると、AIなど新たな技術の登場により、少ない負荷ですばらしいクリエイティブを制作できるという夢物語を思い描いてしまいそうだが、阿部氏はAI活用において新たに発生する業務をワークフローの中に組み込んでおく必要があると話す。
「AIの行う作業には必ず修正や微調整が必要です。AIの制作したコンテンツが必ずしもそのまま右から左に使えるわけでなく、想像通りにできあがっているか、不自然なずれがないかなどのチェック作業をしなければなりません。それから制作前にデザイン画やモデル写真など様々な素材を手配していく必要もあります」(阿部氏)
前処理と後処理の必要性を認識し、それすらも簡便化するクリエイティブツールがこれから必要になってくるだろう。
クリエイティブの民主化によりマーケターが本業に注力できる世界を
こうしたことを背景に、これからのコンテンツ制作についてキーワードとなるのは「テクノロジーに任せて業務を手離れさせること」(安西氏)、「クリエイティブの民主化」(阿部氏)だという。
安西氏は「テクノロジーに任せられることはテクノロジーに任せ、マーケターは本来すべきことにフォーカスした方がいい」と言う。そのためのサポートをすることがアドビの使命でもあり、製品コンセプトにも現れている。
〔Adobe Senseiのクライテリア〕
1.隠れた何かを見つけ出す
2.遅くなっている部分を加速させる
3.意思決定をサポートする
マーケターが画像制作やコンテンツチェックに忙殺されていては本末転倒だ。本来注力すべき戦略立案などの業務に集中できる環境を提供したい、安西氏はそう考えている。
一方、阿部氏は「これまで特別なスキルや専門的な知識を持つ特殊なものとして捉えられてきたクリエイティブを民主化していきたい」と意気込む。気軽にクリエイターや社内に発注できる風土が生まれ、よりよいコンテンツを制作できるようになれば、マーケティングの成果は増大する。
マーケターがターゲットや商品に対して求めるクリエイティブをインプットしたとき、アドビの持つ膨大なクリエイティブストックの中から、AIが最適なものをレコメンドしてくれるようになれば、誰もがクリエイティビティの高いコンテンツを制作できるようになる。すると、テクノロジーを活用しているにもかかわらず画一的なアートワークになってしまうことを防ぐことにもつながるだろう。
AIによって多様で豊かなクリエイティブが自動的に生まれること。これこそ、アドビの目指すクリエイティブの未来だ。