水道会社が開発した「スーツに見える作業着」
水道会社であるオアシスソリューションが、10周年を折に社員の作業着改革として開発したスーツに見える作業着。2017年の発売以降、その商品の機能性の高さや誕生ストーリーのユニークさもあって人気はうなぎのぼり。テレビをはじめとしたメディアでも話題になっているので、読者のみなさんもご存知の方が多いと思います。
筆者も、8月3日よりオープンした横浜の店舗で実際に商品を着用してその着心地の良さに感動し、以降セットアップのスーツとTシャツを愛用しているのですが、夏の暑い時期には汗で汚れたジャケットとパンツを作業着のように毎日洗うことができるので非常に助かっています。また、コロナショックで在宅勤務が続き仕事とプライベートの境界線が無くなっていく中、見た目はスーツのようにフォーマルでありながらリラックスできる着心地の本商品は、これからのライフスタイルに合ったニューノーマルなプロダクトだと思いました。
では、このスーツに見える作業着「ワークウェアスーツ」が作るニューノーマルとは一体どんな未来なのか。本商品を開発したオアシスライフスタイルグループの代表取締役社長 関谷有三さんにお話を伺うことができました。
ビジョンを見つける6つの問い
今回、ワークウェアスーツのビジョンを明らかにするため、TBWAグループのビジョン開発フレームワーク「Vision Composing(ビジョン・コンポージング)」をもとにお話を伺いました。このフレームワークは6つの問いで構成されており、それぞれの問いに答えていくことでその企業やブランドが目指す「あるべき理想の姿(Vision)」を明らかにします。通常はビジョンが明らかになれば6つの問いすべてに答える必要はないのですが、今回はせっかくなので6つの問いすべてにお答えいただきました。
Q1:ブランドが自身に課しやり遂げようとしていることは何か(使命)
関谷:大学を卒業して実家の水道会社に帰った時に思ったのが、水道業界をカッコよくしたいということ。最近でこそブルーカラー/ホワイトカラーといった職業差別は無くなってきましたが、それでも服装によって固定化された職業のイメージってあると思うんです。そんな「職業観を再構築したい」と思い、作業着の対極を考えた時に浮かんだのが“スーツ”でした。作業着をスマートにしたい。そんな使命をもって、スーツにみえる作業着の開発をはじめました。
Q2:どのような目的のために創られたものなのか(目的)
関谷:良い意味で「服を選ぶ自由を奪いたい」と思っています。従来のファッションが担っていた大きな役割のひとつに、自己表現があると思います。しかし、現代ではSNSをはじめとした自己表現の手段は多岐に亘っていて、必ずしもファッションによる自己表現が必須でない。服で自己表現をする人はもちろんいますが、一方で自己表現のために服を選ばないといけないことに、窮屈さを感じる人もいると思います。そんな人にとって私たちの服が安心できる選択肢となり、服を選ぶ自由を奪うことで「もっと自由な自己表現をしてもらいたい」と思っています。
Q3:このブランドがなくなったら世界は何を失うのか(存在意義)
関谷:先ほどお伝えしたことと重なりますが、「服を選ばない自由」が失われるでしょう。今、ワークウェアスーツは20代から70代まで幅広い年齢層の方に使っていただいています。沖縄のタクシー運転手の制服となっていたり、若者が原宿でデートする際に着ていたりと、本当にいろんな場所で同じ服が活躍しているのです。それは、このスーツに見える作業着さえあれば「シーンに合わせて服を選ぶ必要がない」からなんです。私自身、工事現場から冠婚葬祭まで全部これひとつで過ごしていて、服を選ばない自由を謳歌している一人です。もしこのブランドが無くなったら、こうした自由も一緒に無くなってしまうと思います。
Q4:このブランドのユニークな視点は何か(着眼点)
関谷:「服選びに振り回されない快適さ」があるといいと気づいたことで、このブランドの進むべき道は明確になったと思います。作業着に劣等感があったり、着る服によって気分が高揚したりと、服選びの良さはある一方で、服選びに振り回されている自分がいたことも確かです。世の中わずらわしいことってたくさんあるじゃないですか。この、服選びによるわずらわしさから解放することで、世界中の人が自分のやるべきことに集中することができると思っています。
Q5:このブランドの最終的な目的は何か(野望)
関谷:このブランドはスーツからスタートして、今どんどんアイテムを増やしています。アイテムの種類はコートやワンピースなど増やしながら、それぞれのアイテムのバリエーションは増やさずにどんどん洗練させていく。共通しているのはひとつの高機能なマテリアルを使っているということ。機能的にもデザイン的にも「これひとつでいいじゃん」と言ってもらえる我々の製品が広がっていくことで、世界中の人を服による「窮屈さから解放できる」と思っています。