オンライン接客を取り入れ、店舗売上は前年比増に
コロナ禍はIKEUCHI ORGANICの事業にも影響を与えた。店舗は約2ヵ月間休業、その後は営業時間を短縮して開店している。特に影響が大きかったのはBtoB事業で、売上比率が高い主要取引先を中心に発注自体が減り、大きな打撃を受けた。その一方、ECには成長の兆しが見られた。「巣篭もり需要で、インターネットで購入したいというニーズが大きくなっていました」と牟田口氏。
そこで4月下旬からスタートしたのが、Zoomを利用したオンライン接客だ。商品愛にあふれる店舗のスタッフが、Zoomを使ってお客様に商品を説明。当初は1画面で行っていたが、タオルの風合いや肌触りが少しでも伝わるよう、商品を拡大表示する別の画面も用意した。

そもそもオンライン接客を導入したのは「コアなお客様からの要望」だったという。もともと、愛媛の今治本社と東京の会社スタッフがやりとりするためにZoomを活用していたため、新しい投資は不要だった。やってみようと素早く動いたことが大きなポイント、と牟田口氏は分析する。
必要以上に議論を続けても、スピードに乗り遅れてしまう。IKEUCHI ORGANICは「お客様に満足いただくために何ができるか」の原点に立ち返り、いち早くオンライン接客の導入を決定した。接客を体験した顧客がnoteやツイートで広め、新規顧客の呼び込みにつながった。素早く動いたことで多くのメディアに取り上げられ、さらなる追い風にもなった。
開始時、牟田口氏が仮説として持っていたのは、リピーターを中心に利用されるだろうということ。ところが結果は大きく異なり、新規顧客が約8割、購入率は9割を超えた。客単価は2倍以上、店舗単体の売上も前年比増という結果をもたらした。
社内の宝物を大切に
オンラインの活用は接客にとどまらない。これまではリアルイベントとして実施していた工場見学も、オンラインに移行。参加者の35%を占めたのは、商品を持っていない顧客だった。IKEUCHI ORGANICのことをSNSやメディアで知り、参加してみたいと思った人が多かったようだ。終了後のアンケートでは、96%が「大満足」と回答。口コミの数もリアルの工場見学と比べて4倍に達していた
この理由について牟田口氏は、その場限りの配信にしたこと、参加者がチャットで随時書き込めるようにしたこと、台本はあったものの変更も多くリアルタイム感があったこと、などと分析した。
最後にコロナ禍を踏まえたマーケティングの方針を紹介。前掲のマーケティング施策マップには、「オンラインイベント」「オンライン接客」の2つが加わった。

「オンラインイベントが加わったことで『知る』『調べる』の体験の幅が、さらに広がりそうです」と牟田口氏。今後は、実際に綿花を作っているタンザニアの農家とつないだイベントを開催する計画もあるそうだ。
オンライン接客も強化していく。牟田口氏自身も、お客様と話す機会を週に1回ほど設けているそうで、「お客様がどのようなニーズを持っているのか、ECサイトどこを改善するといいのかなどがよくわかります」と話した。
最後に牟田口氏は、ファンの輪を広げ、エンゲージメントを構築する際に重要なことは「社内の宝物を見つけること」だと述べた。「マーケティング戦略を練るときには、社外の事例を参考にしがちですが、社内に宝物はいっぱいあります」と呼び掛け、講演を締めくくった。