「誰に、何を、どのように」を見つめ直す
今治タオルメーカーのIKEUCHI ORGANIC。「最大限の安全と最小限の環境負荷」を経営理念に、オーガニックコットン100%、無農薬で殺虫も使っていないコットンで「全製品赤ちゃんが口にしても安全」レベルの国際認証を取得しているという。2015年にAmazonから転職した牟田口氏は、コロナ禍におけるエンゲージメント戦略を以下の3つと語り、同社がこれらをどのように実践しているのかをテーマに講演した。
1. 自信を持って語れる商品・サービス
2. 自社商品を語れるスタッフ
3. 日頃からファンと繋がっているか
実は同社には、顧客との関係性を考えるきっかけとなった出来事がある。創業は1969年、元々はOEMとして海外のブランド向けにタオルを製造していた同社は、1999年に自社ブランドを立ち上げ、着実に事業を拡大していった。その矢先、売上の70%を占めていた問屋が倒産。2003年に民事再生法適用を申請したのだ。
会社を閉鎖するか事業再生するかの決断を迫られたその時、オーナーの池内計司氏が選んだのは、自社ブランドに懸けることだった。牟田口氏は当時の池内氏の考えを、次のように代弁する。
「誰に対して、何を、どのように販売するのか。この3つについて、原点に立ち返って考えました。報道を見たファンから、電話やFAXで『何枚タオルを買えば復活しますか?』といった声をもらったり、ファンサイトが立ち上がったり。熱烈な支持があることに気がついたのです」(牟田口氏)
「誰に」の部分は熱烈なファン層だが、「何を」についてはどうか? エコや環境ブームの前だったが、池内氏は今後は環境と安全に特化したタオルが求められると考え、これを指針にした。そして「どのように」は、顧客とのコミュニケーションを重視するというやり方をとることにした。つまり、ファンを重視して「ファンベース」を作り、中長期的に売り上げや価値を上げていく方針を徹底した。
お客様の前で90分間、説明できる製品か?
ではIKEUCHI ORGANICのファン作りはどのようなものか。牟田口氏は、商品と顧客コミュニケーションの2つの側面から説明する。
まず、メーカーとして素晴らしい商品を出すべきなのは言うまでもない。IKEUCHI ORGANICの場合は「どのようなお客様に喜んでいただきたいか」を特に重視し、商品を出している。オーナー池内氏は「お客様の前で90分間、商品を説明できないタオルはダメだ」と述べているとのことだ。
その商品を土台に、オフラインとオンラインの両方で顧客コミュニケーションを展開している。IKEUCHI ORGANICでは、マーケティング施策マップとして、知る、調べる、体験する、購入する、繋がるの5ステップを描いている。
オフラインは、今治本社、東京、京都に構える直営店での取り組みだ。ここでは自社のタオルを並べるだけでなく、体験型の店舗を構えている。タオルソムリエの資格を持つスタッフが一人ひとりに合うタオルを提案、1時間ぐらいかけて選ぶ顧客も珍しくないという。加えて店内に洗濯機と乾燥機を展示し、実際に200回、300回と洗ったタオルも見せているそうだ。
「お客様がどの瞬間に納得して商品を買っていただくのか、どの商品のファンになっていただくのかを大切にしています。サンプルを試してもらい実感していただいたり、スタッフと話をすると、ファンになっていただける確率も高いのです」(牟田口氏)
コロナ禍の前は、直営店で年に数回イベントも展開していた。40~50人程度が集まるイベントで、オーナー池内氏が自ら顧客に語りかける。参加者からは”商品やものづくりの裏側が聞ける”と好評で、ここでファンになってリピートするという流れができているという。