店舗体験の希少価値が高まっている
菅野:トリドールでは、コロナによる影響は出ていますか。
篠原:”店舗での感動体験”という一番の強みを生かしきれなくなったのは、やはり影響がありました。コロナ対策についても、安心を積み重ねていかなければこれまで築いてきた信頼がすべて崩れてしまいます。当社でも、グローバルの各ブランドが安心・安全をお伝えするための方法を検討するのに多くの時間を費やしました。日本でも丸亀製麺のテレビCMをコロナ対策版「安心篇」をご覧いただいた方は多いかと思います。同時に、店舗の外でも食の感動体験をどうお届けするか知恵を絞り、テイクアウトやデリバリーをはじめ業態モデルの転換を進めました。
また、外食がお客様の気持ちの中で少し憚られるようになったからこそ、店舗体験の希少価値はより高まったと感じています。そういった状況を踏まえ、当社では各ブランドで一回一回の来店価値をより高める取り組みがはじまっています。たとえば、グローバルのいくつかのブランドでは、食事中に使うマスクケースをお客様に期間限定で提供することにしました。するとお客様からインスタのストーリーズを中心にマスクケースに関する投稿と、それに付随してブランドへの好感や感謝の言葉がより多く見受けられるようになり、「お客様を大事にしてくれるブランド」という空気感がお客様によって醸成されました。

菅野:LIFULLでも、休業していた「住まいの窓口」を営業再開したとき、すぐに予約で埋まりました。直接人に会って相談するという行為が貴重なものになったんだなと思いましたね。コロナ禍で既存のコミュニケーションの価値が見直されているのだと思います。
「待ちのSNS」戦略でナラティブにインスタ運用
菅野:ちなみに、SNSは活用していますか?
篠原:ちょうど9月下旬から、丸亀製麺のInstagramアカウントを本格的に活用し始めました。元々当社やうどんという商材がTwitterとの相性がよく、積極的に活用していたのですが、それ以外のSNSを中心に活用しているお客様とコミュニケーションが取れていないという課題がありました。
私たちのスタンスも、ユーザーを「いけす」で囲わず、「ナラティブでいこう」という菅野さんの考え方と同じです。インスタの運用方針は「待ちのSNS」。「#丸亀製麺」で投稿してくれたユーザーに、「いいね!」をし、「ストーリーズ」でリポストをするのが運用のメインです。UGCへの対応は週に数回、15~30分ずつアクションタイムをとるだけ。一日中インスタに張り付くことはありません。リポストする際はコメントを入れるのですが、そのコメントをする「中の人」像はどんな人であるべきかについても、社内でディスカッションして目線を合わせています。
公式アカウントの投稿は、月数回程度。インスタはデジタル上のメニューであると捉え、検索で見に来てくれた方の受け皿と位置付けました。丸亀製麺のフィードを上から眺めていくと、うどんへのこだわりを伝える「ハイライト」がまず目に入り、その後、季節のフェア商品をモザイクアートのように9分割で表示させて印象づけます。
篠原:SNSってこちらからアクションしたり、たくさん更新しなきゃと思われがちですが、SNSは“みんなのもの”。既に認知の高いブランドの場合、お客さまによる発信も会話もありますから、そこに最大限感謝・そして活用させていただく方がいいのではないかと思います。
菅野:これぞナラティブベースのSNS運用ですね。すばらしい挑戦だと思います。最後に、今後の展望をお聞かせください。
篠原:既存ブランドの海外展開に挑戦したいですね。一人のグローバル人材としてもっと成長したいので、英語圏以外の文化を学ぶことに意欲的です。今はハラルについて勉強しながら、イスラム文化のお客さまを理解しようとしています。まったく違う文化の方々の食や国の成り立ちについて知ることは面白く、自分の価値観もアップデートされて、本当に刺激的です。
菅野:ありがとうございました!
