意外と知られていない改正個人情報保護法のポイント
高橋:村瀬さんは個人情報保護法の改正作業にも携わられたそうですね。
村瀬:はい。内閣府の外局である個人情報保護委員会事務局に出向し、改正作業を担当していました。法律というとどうしても規制に縛られてしまうイメージがありますが、実は、個人情報保護法の目的として、「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護すること」と規定されています。
政府としても、私たち経済産業省としても、プライバシー保護とデータ利活用の両面を推進すべきという考えをもっています。その点も含め、今回の法改正に当たっては、5つの視点がありました。
・消費者の意識の高まり
・保護と利活用のバランス
・国際的な制度調和
・国をまたぐデータ活用に対するリスク対応
・事業者の説明責任(本人にとって予測可能な利用のされ方がなされているか)
高橋:国をまたぐデータ活用は、まさに私の会社も気をつけなければいけないところです。
村瀬:そうですね。日本の個人情報保護法における「個人情報」の定義は、GDPRなどの海外の法令の定義とは異なる点があります。氏名や生年月日など、特定の個人を識別することができるもののほかに、「事業者が所有している他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるもの」も個人情報にあたるのです。
そのため、何が個人情報に当たるのかはケースバイケースで、たとえばサードパーティCookieだけを持っているという状況では、個人情報にあたらない可能性があります。一方、そのCookieだけを持っていた企業が別のところからメールアドレスなどを取得し、Cookieと紐づけることで特定の個人を識別することができれば、そのCookieは個人情報に該当する場合があります。

高橋:意外と知られていない観点かもしれません。このことを踏まえた上で、改正された点を理解する必要がありますね。
村瀬:はい。今回の改正では、(1)利用停止・消去など各種請求権の拡大、(2)提供先での突合に関する規律の追加、(3)罰則の強化が大きなポイントになってきます。
(1)について、改正前の個人情報保護法では、個人が事業者に対して利用停止等の請求をすることができるのは、事業者が個人情報を目的外に利用しているときなど、明らかに法律に違反している場合に限られていました。改正後の個人情報保護法ではその範囲が広がり、個人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合にも、事業者に対して利用停止等の請求をすることができるようになります。
(2)については、自社では個人情報に該当しないものの、提供先で明らかに個人データ化することが想定される情報の第三者提供を行うときには、通常の個人データの第三者提供と同じように、その提供について本人の同意が得られていなければならない。つまり本人の同意が得られていることを提供元が確認する必要があるという規律が追加されます。
(3)は国際的な潮流などを踏まえて、法人に対しては最大1億円以下の罰金が科される仕組みになります。これまでの罰金額が数十万円規模だったことを考えると、非常に大きな変更です。
個人情報保護委員会側も、Cookieの個人情報への該当性も含め、今回の改正内容などについて、事業者の皆さんにわかりやすく周知していく必要があると認識しており、昨年12月に公表された「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」においても、そのことが明記されています。現在は法律ができたばかりで、詳細な点については政令や施行規則、ガイドラインで規定されていくことになりますので、注視していただければと思います。
法規制にこそイノベーションが必要?
高橋:データの利活用を促進するために、政府としては現在どんなことに取り組んでいるのでしょうか。
村瀬:直接的な対応としては、様々な取り組みを行っています。たとえば、経済産業省と総務省は、今年8月に、プライバシー保護への要請に配慮しながらデータ利活用に関する新しい事業に取り組む事業者向けに、プライバシー・ガバナンス・ガイドブックver1.0を発行しました。
個人情報保護委員会も、今年4月にサポートデスクを設置しています。この窓口では、検討中のビジネスモデルにおけるデータ活用に関して、個人情報保護法上の留意事項等についての相談が可能です。
高橋:事業を開始する前に、データの適正かつ効果的な利用がなされているかを検討するための手段を増やそうとしているのですね。
村瀬:はい。長期的な観点からは、イノベーションを促進するための法規制の在り方についての根本的な検討も行っています。
法改正のスピード感がデジタル領域の技術進展のスピードに追いついていない、法令順守だけではリスクを避けきれないという問題意識に端を発したもので、昨年、ガバナンス・イノベーションと呼ばれる新たなガバナンスモデルの在り方についての検討の報告書を取りまとめ、発表しました。こうした課題感はグローバルに共通するもので、各国からも様々な反響がありました。