コロナ禍でも商談数200%を実現させた理由
コロナ禍で、世界中がこれまで経験したことのない課題に直面している。多くの企業では業務のリモート化やオンライン化など、デジタルシフトを開始した。内田氏は「これまでの常識に囚われていては、今後の事業維持は困難になる。人々の価値観や働き方が大きな転換期にある今こそ、継続的に事業を成長させる戦略を立てる必要がある」と説く。
同氏が取締役を務めるInnovation & Co.は、BtoBに特化した営業・マーケティング支援を事業の柱としており、コロナ禍でも商談数200%を実現させたという。その“勝因”は「KPI設定を変える」「セールス部門とマーケティング部門の垣根を壊す」「重要度の高い施策を"協働"する」ことだと紹介し、取り組み内容を具体的に紹介した。
「分業型組織」にありがちな3つの弊害
冒頭、内田氏はマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスがチームとして分けられている「分業型組織」で発生しがちな3つの弊害について言及した。
1つ目は「Conflict(衝突)」である。リモートワークが定着し、社内のコミュニケーション量が減少したことが引き金となり、マーケティングチームとインサイドセールスチーム、そしてフィールドセールスチームが衝突するケースだ。「リード件数の増加と受注数の増加が比例しない」(マーケティング)、「リードの質が悪く、アプローチの手間が増える」(インサイドセールス)、「無駄なアポが多い」(フィールドセールス)といった非難の応酬が増加しているという。
こうした部門間の衝突は、2つ目の「Not shared(情報共有の欠如)」を引き起こす。たとえば、営業部内では共有されている顧客の興味・関心を引くセールストークやパワーワードが、マーケティング施策に活かされない。マーケティング部門が持つコンバージョン率(CVR)の高い資料が、セールスの現場で利用されていないといった具合だ。内田氏は「変化のスピードが速い状況で成果が分散すれば、競合に負けてしまう」と指摘する。
そして3つ目が「Not Optimization(非最適化)」だ。マーケティング部門とセールス部門が分業している状態では、人的リソースの最適化を行うのが難しい。その結果、本来ならば発生しないはずの“衝突”が頻繁に起こってしまうのだ。
「連携」ではなく「協働」で結果をたたき出す
Innovation & Co.ではこれらの弊害を克服するため、3つの取り組みを行った。1つ目がKPI設定を変えたことだ。コロナ禍の影響で、各部門はこれまでのKPIが達成できなくなっている。こうした状況を考慮せずに、これまでのKPIを用いても、組織内にひずみが出るだけだ。内田氏は「これを打破する対策として、マーケティング部門とセールス部門のKPIに重なりを持たせた」と説明する。
具体的には、マーケティング部門とインサイドセールス部門のKPIを「リード獲得件数」と「商談獲得件数」、インサイドセールス部門とフィールドセールス部門のKPIを「商談獲得件数」と「受注獲得件数」とし、両部門で施策を講じられるようにした。そしてSlackなどを活用して情報を共有したのである。
内田氏は「KPIに重なりを持たせることで、部門横断的な一体感が増し、KGIの議論が活発になった。その結果、本質的な施策が増えて、成果も上がる」と指摘する。
境界線をなくして生産性を上げる
2つ目の取り組みは、「セールスとマーケティングの垣根を壊す」ことだ。内田氏によると、“イケてる”会社ほど、セールス部門とマーケティング部門の境界線がなくなっているという。
コロナ禍初期に直面した課題は、「インサイドセールスの成果(落ち込み)に比例して案件数が減少した」ことである。しかし、Innovation & Co.は組織体制を柔軟に変更し、この課題を乗り越えた。具体的にはインサイドセール部門とフィールドセールス部門から約50%のリソースをマーケティングの“助っ人”とし、マーケティング施策を担当したのだ。具体的には自社コンテンツの拡充やWebセミナーの開催など、本来はマーケティング部門の業務をセールス部門が担当した。
内田氏は人材の人的リソースの再配分で得られた効果について、以下のように説明する。
「業務内容をフレキシブルに変更することで、一人あたりの生産性低下を防止する。こうした取り組みは、中長期的に見ても組織としてのパフォーマンスの低下にはならない。むしろ情報共有が活発化し、先に紹介したような部門間での衝突を回避できる」(内田氏)
新規リードよりも過去リードの棚卸しを“協働”で実施
3つ目の取り組みである「重要度の高い施策を“協働”で実施する」で重要なのは、ハウスリストからの受注を増やすことだ。新規リードを多量に獲得してきても商談に結び付くのは、優秀な企業であっても20%から30%。残りの80%近くは放置されてしまうという企業も少なくないだろう。
Innovation & Co.では、受注獲得の約50%は、過去に獲得したリードだという。つまり、過去のリードを棚卸しし、必要なフォローをしっかりと行っていけば、新規リードを(躍起になって)獲得するよりも効率よく発注に結びつけられる可能性が高い。
たとえば、「資料はダウンロードしたが接触できていない」「過去にアポイントを断られた」「商談後に失注している」といった、「適切なアプローチをすれば受注できそうな見込み客」をセグメントし、興味関心を引くようなメールやセミナーの案内を送る。内田氏は「こうしたホットなリードに対するアプローチはマーケティング部門だけでも、セールス部門だけでも情報が足りず完結しない。各部門の“連携”ではなく“協働”が不可欠だ」と力説する。
なお、Innovation & Co.ではBtoB向けマーケティングオートメーションツールとして、「List Finder」を提供している。同ツールはCRM(顧客関係管理)ツールの「Salesforce」とAPI(Application Programming Interface)連携が可能なので、自社のCRMに登録されている顧客に対してアプローチが可能になる。内田氏は「こうしたツールを活用しながらマーケティング部門とセールス部門が協働し、効率的な受注獲得を実現してほしい」と締めくくった。