不安下において減少した消費者行動、増加した消費者行動
感染不安、収入減少の不安のなか、消費者行動も顕著に変化している。
ニッセイ基礎研究所が2020年6月にまとめた「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」によると、コロナ収束後(「ワクチンや特効薬などが開発され、季節性インフルエンザと同様に予防や治療ができるようになった時」と定義)の消費行動について、スーパーとかドラッグストア、コンビニ、デパートの利用については、「今後減少する」と答えている割合が多いという。
一方で増加が目立つのが、ネットショッピングの利用やキャッシュレス決済だ。「リアルな接触を避けるデジタルシフトが消費行動においても顕著に表れています」と久我氏はいう。食事も同様に、リアル店舗での飲食は減少しているが、デリバリーやテイクアウトは増加傾向にある。
移動についても、車や自転車の利用など、セルフで移動する手段が増えた。コミュニケーションもオンラインの利用が増加し、「全体として、デジタルシフトが加速している」と久我氏は見ている。
このデジタルシフトの裏にあるのは、「人と接触して、感染するのが怖い」という消費者心理だ。久我氏は、この不安を払拭する取り組みとして、最近注目されているが「楽しさの提供」だという。
たとえば飲食店では、ソーシャルディスタンスを保つため、席どうしの間隔を開けなくてはならないが、そこにぬいぐるみを置いて、楽しさを演出するなどの取り組みを行っているレジャー施設がある。ハワイのアラモアナショッピングセンターでは、サメが描かれたアルコール消毒液を置き、サメの口に手を入れると消毒液が噴射される工夫を施して、消費者の不安や緊張感を払拭する対策を行った。「楽しさというのは1つのキーワードだと思っています」と久我氏は説明する。
感染不安が強い層のデジタル志向が強まる
では、そもそも「感染不安が強い人」とは、どういう層なのか。
男女別で見ると、概して女性の方が、感染不安が強い。久我氏はこれについて「どんな調査でも、女性の方が慎重で悲観的な結果が出やすいので、これもそれと同等だと思います」との見解を示す。
年代別で見ると、男女とも30代の感染不安が強い。ライフステージで見ると、「大学に入学した子どもがいる」「小学校に入学した子どもがいる」「未就学児がいる」という特徴があり、家族のことを考えて感染不安が強くなっているようだ。また職業別でいえば、専業主婦、もしくはパート・アルバイト職は、最も感染不安が強い。仕事における自由度がなく、出勤せざるを得ない立場だからこそ、感染不安が強く表れるようだ。
こうした不安は、行動指針にも現れている。たとえば、「同様のサービスであれば、対面よりオンラインの方が好まれるようになると思う」と考える人は、概して感染不安が強いが、「これは『感染不安が強いので、デジタル志向が強くなる』という因果関係だと思います」と久我氏はいう。
実際、デジタルシフトが最もわかりやすい「買い物」というシーンでも、リアル店舗の利用より、デジタル手段の増加が目立った。不安が強いぶん、消費者のデジタルシフトが進んでいるわけだ。

これは働き方についても同様だ。実際、テレワークに切り替えられる職種ではデジタルへ移行している。一方で、問題になっているのが在宅勤務しにくい職種で、これは約6割という調査結果が出ている。
この状況に対し久我氏は、「こうした状況で、企業は従業員を守るための対策が必要になっています。幸い、消費者側もデジタルシフトが進んでいて、対面接触を避ける傾向にあるため、従業員のデジタルシフトを促すことが、結果的に消費者のニーズに対応することになる可能性が高いです」という。
一方、テレワークが可能な職種の人は、通勤等の移動時間が削減されるため、自由時間が増加している。将来的には、この増加した時間に対し、趣味やサービス的な消費が広がっていくという見方がある。実際、自粛期間中の4〜5月はDIY関連商品の消費が増えたが、この傾向は今後も続くと予想され、「増加した自由時間に人々がどう過ごすか」が将来のポイントになるといえそうだ。
