※本記事は、2020年10月25日刊行の定期誌『MarkeZine』58号に掲載したものです。
ファーストパーティデータ活用に本腰、自社ツールを開発中
株式会社日本経済新聞社 デジタル事業 メディアビジネスユニット ユニット長補佐
経営企画室 マーケティング戦略グループ メディアビジネス クロスメディアユニット
マーケティング推進部 國友康弘(くにとも・やすひろ)氏
1992年日本経済新聞社入社。東京・大阪で新聞広告営業に従事。2005年~2009年、日経アメリカ社出向。2010年からは日経電子版の創刊にあたり、デジタル営業局(当時)で広告営業、ほどなくして日経IDを中心とするデータ活用・商品開発、運用に従事する。2019年4月より現職。SFA/CRM活用推進、デマンドジェネレーション、新規事業開発に携わる。
――まずは各種規制の強化に対する御社の受け止め、対応について教えていただけますか。
当社では以前から日経IDを中心とするファーストパーティデータの活用を大前提に動いており、その戦略は変わりません。広告事業だけではなくデジタル事業全体として、お客様に対してより良いコンテンツ・サービスを提供していくための方針です。
その手段の一つとして、2016年から自社基盤・ツールの開発が進んでいます。編集、サービス開発、マーケティングにおいて、全ての読者・記事について正確な情報に基づく意思決定を下すためのデータをリアルタイムに収集・活用できることを目指したプラットフォームで、ソースコードも公開しています(※1)。
広告事業では2015年からDMPを利用してきましたが、アプリのターゲティングなどで外部ツールの壁も感じていました。規制強化にともなって提供できるサービスが限定されてくる可能性も視野に入れつつ、自社ツールの活用範囲を広げています。
三方良しを原則とする
――パブリッシャーにもこれまで以上に、データ活用に関して明確に説明することが求められていると感じます。
そうですね。私たちはデータ活用に関するステートメント「誠実をもとにした三方良し」と「読者と向き合う4つのR」を定め、広告営業支援に関するWebサイトに掲載しています(※2)。
誠実をもとにした三方良し
(1)読者(ユーザー)の方の大切な時間を費やしていただいている代わりに、媒体社としては価値のある情報をご提供する。
(2)企業様から広告費をいただく代わりに、読者との関係を良いものになるよう適切なコミュニケーションを支援する。
(3)そして、企業様には読者にとって価値のある、何がしかの課題解決としてのメッセージを発信していただき、読者の方に好感を持って受け入れていただく。
出典:日経マーケティングポータル
読者がデータを日経に提供してくださるのは、「データを預けることが、自分にとって得になるはずだ」と思ってくれているから。その期待を裏切らないように対応していくのが筋だと思います。ユーザー体験を損ねない、広告主のブランド価値を損ねない、この2点を守っていくことが、広告ビジネスの成長につながります。
「読者と向き合う4つのR」は、行動履歴だけでは「よいターゲティング」はできないという考えに基づいています。その情報に興味がある人(Right Person)、受容できるタイミング(Right Time)と場面(Right Place)、そしてメッセージ/クリエイティブ(Right Message)が重なったとき、広告は効果的に届きます。技術だけではなく、読者への配慮が問われます。デジタル媒体、特にスマホでは広告のShare of Screenが大きくなりますし、よりプライベートな空間という感覚を持つ人も多い。記事を読んでもらっているときの気持ち、態度に合った広告を届けることが一層大切で、そのためにデータを使わせてもらっています。これを厳格に守っている限り、読者が嫌がることは起きないはずですし、法律に触れることもないはずです。