広告主にもたらす価値とは
――次に、広告事業の方針についておうかがいします。パブリッシャーが広告主に提供する価値について、また御社の具体的な注力領域について教えてください。
広告主からすると、オウンドメディアや企業サイトといったお客様との自社接点で定期的かつ頻繁に来訪してもらうことが難しく、それ以外にお客様を理解する手段が足りない。そこでメディアが持っている力をお使いいただく、ということです。
コンテンツ制作の機能を切り出して広告主に提供するケースも考えられるとは思いますが、現在は行っていません。「三方良し」は日経という場があり、読者がそこにいてくださるから成立しています。
また、メディアに広告を出稿する価値は、クリックやリードだけではありません。コミュニケーションのより上流で「私たちはこういう者です」「怪しい者ではありません」と知ってもらい、顔見知り、知り合い、友人、パートナーと距離を縮めていくフェーズでお役に立てる。メディアの広告ビジネスの本質はそこにあると思います。メディアは情報収集能力、編集能力、表現力がまず重要で、そこを評価いただいている読者がいるから、広告を展開できる。こうした点を理解している企業様とは、お付き合いがより長く、深くなっています。
注力分野でいうと、BtoBマーケティングの支援領域拡大、読者基盤を活かした新しい収益事業の開発という二つの方向性があります。新規事業にはたとえばシェアオフィスサービス「OFFICEPASS」や先日リニューアルした「日経転職版」などがあります。いずれも、「意思決定に携わる日本のビジネスパーソン」という読者層に必要なものを届けていこうという意識ですね。
パブリッシャー間の連携は進むか
――近年、複数のパブリッシャーが手を組み、広告事業、データ活用の面で連携するプラットフォーム化構想が各国で進められてきました。一連の規制強化を契機に、こうした動きは加速していくのでしょうか。
日本でも2020年6月に、一次コンテンツメディアが「コンテンツメディアコンソーシアム」を創設、共同広告プラットフォーム事業を進めています(※3)。弊社も参画しており、こうした枠組みが生まれたことは前進です。フランスの「スカイライン(Skyline)」は、全国民の8割ほどをカバーしている(※4)と報じられていましたが、この規模まで行ければさらに可能性が見えてくると思います。
こうしたアライアンスは、各パブリッシャーが読者に対して「私たちはメディアアライアンスのメンバーであり、ユーザーデータを相互に使わせていただきます。それを基に、知りたい情報により近い広告・コンテンツをお届けします」と明示し、了解をもらうことで、互いのデータ活用が進んでいく……というところまで進められると、大きなインパクトが見込めるでしょう。
新聞の印刷で輪転機をシェアするように、デジタルでも「一緒にやれることはやりましょう」という考え方を持つべきだと思います。長期的には、自社のビジネスに支障が出ない範囲で手を結び、データとコンテンツで独自性を保っていく、という戦い方になっていくのではないでしょうか。
※3 https://bi.garage.co.jp/news/20200622.html
※4 https://teahouse.fifty-five.com/en/gravity-alliance-skyline-coalition-news-mediaalliance-the-force-awakens/