「広告宣伝部」とは何をしている部門なのか?
――長さんは、これまでどういった考えでマーケティングと経営に取り組んでこられたのですか?
私はP&Gで15年ほど、マーケティングと経営の両方に携わってきました。両方に、というのは、P&Gでは「経営=マーケティング」が大前提だからです。組織構造上でも実質的にも、マーケティング部門に経営の責任があり、入社1年目から、ブランドという事業単位の経営者として、持続性のあるブランドの売上と収益を上げることが課せられます。
また、P&Gでは「Consumeris Boss.」つまり顧客こそが自分たちの上司であるという考えを徹底しています。研究開発部門もファイナンス部門も、部門に関わらず社内の全員がこの考えを拠り所にしていて、「で、顧客はどう言っているの?」という言葉があちこちで聞かれます。
そんな中で、ブランドマネージャーから、最終的には化粧品や家電などの事業責任者を務めてきたので、私にとってはマーケティングと経営を分けて捉えるほうが難しいんです。一方、他社のマーケティング部門や経営者と話すと、ほとんどの方がマーケティングと経営を切り離して考えておられ、本来なら起点となるはずの顧客を見ていない状況がありました。P&Gしか知らなかったので、なぜそうなっているのか最初はまったくわかりませんでしたし、「広告宣伝部」という部門があることも疑問でした。マーケティング部門や事業部と切り離されて、広告宣伝だけを担う部門があることが理解できなくて。
――なるほど……! 確かに、マーケティング部門がPL責任を持って商品から施策までを担う環境にいると、広告宣伝の機能だけ部門を独立させるのは不思議ですね。デジタルマーケティング部門も、黎明期は出島のように位置づけられていましたが、さかのぼって広告宣伝部も、日本企業の組織における出島的な存在だったのかもしれません。予算があり、クリエイティブを生み出し、消化していくという。
そうかもしれないですね。私には、その存在を知った当初はピンとこなかったんです。おそらく、プロダクトが強かった時代の日本企業では、品質のいいものを速やかに周知する点で、広告宣伝部を出島的に置くほうが効率が良かったのだろうなと思います。今も、商材によっては有効かもしれませんが、全体的にはプロダクトの強さだけで勝負できた時代から、顧客視点で他のオプションの中から優先的に選ばれるようにする「顧客起点の戦略的なマーケティング」が必要不可欠な時代へと変わっているので、組織の問題を抱える企業も増えていると感じています。
不透明な時代だからこそマーケティングに活路を見出す
――今年は奇しくもコロナ禍で多くの企業が影響を受けているかと思います。少なくとも広告市場は縮小が予想されていますが、マーケティング全般を捉えると、いかがでしょうか。クライアント企業の状況などを踏まえると、やはり予算は縮小傾向にありますか?
いえ、一概に縮小とは言えません。コロナ禍で大きく打撃を受ける業種もあれば、これを追い風にオンライン化を進めて伸びている業種もあるので、ビジネスによって様々ではないでしょうか。また、当社のクライアントだと仮にビジネスが苦しくても、「だからこそ本腰を入れたい」と言われることが多いですね。変化の多い今だからこそ、それにともない変わっていく顧客インサイトを捉え、事業への貢献を最大化する本質的なマーケティングに投資したい、効果的なマーケティングを実践したいという意志を強く持たれています。
――不透明な時代だからこそ、先を見通して戦略を立てたい、というわけですね。御社は2020年2月に発表された「マクロミル・コンソーシアム」への参画を皮切りに、インテージ、サイバーエージェント、博報堂との協業を相次いで発表されました。これらのパートナーシップ強化の動きは、マーケティングに本腰を入れたいクライアントに応えるものでもあると思いますが、各社との協業の意図は?
戦略立案の前後を含めて一気通貫でクライアントをサポートし、最大限の効果を上げることが目的です。当社は、経営の目的に見合った獲得すべき顧客を見出し、その顧客の意識と行動変容のための顧客戦略立案をコアバリューとする会社で、「9segs」の作成と運用に欠かせない実際の顧客調査の部分、また9segsにより導き出した顧客戦略を実行する段階に欠かせない広告宣伝の部分は、他のマーケティング支援会社が担うことになります。
ただ、正しい調査設計を行わないと正確な「9segs」を作成できず、また、顧客戦略が精緻に立てられたとしても的確な施策やクリエイティブに落とし込めないと、効果が上がらない。我々はクライアント企業のビジネスを飛躍させるために支援をしており、正しく顧客戦略を導き出し、精緻に実行できて初めてクライアントに貢献できます。その点には強いこだわりがあるので、当社の考え方やアプローチを理解していただける企業との協業を進めました。