WHO・WHATを行き来する思考を身に着けるには
――お話をうかがっていると、日本企業が過去の歴史において最適化してきた状態から、今大きく脱却する必要があるのだなと感じます。コロナ禍によって打撃を受けている業界ではなおさら、これを機に組織形態を含めて転換しようと腹を括らないと、生き残れない。
おっしゃるとおりだと思います。そして、腹を括った上で前述の3点を強化項目として取り組めば、多少なりとも前進するはずです。特に、勝ちパターンというのはピンとこないかもしれませんが、たとえばうまくいくオリエンやプレゼンの「型」、うまくいく調査や広告制作の「型」みたいなものは、ご自身の経験を棚卸しすると、なんとなくあるのではないかと思います。おそらく、これまで書籍などで学んだ先人のフレームワークや、チームで動く中で得た考え方などに自分の知見が重なって、醸成されていくのではないでしょうか。
――なるほど。その延長上に、マーケティングがうまくいく「型」もある。勝ちパターンといっても、どこから引っ張ってくればいいのかと思ったのですが、足元から見出していけそうですね。
そう思います。私自身、自分の「型」だと思っているものはすべて先人や先輩の影響を受けていて、ゼロから考えたものではありません。でも、そうやって外部の考えを借りて、その裏側にある普遍的な概念をつかもうと意識しながら実践を繰り返し自分の「型」を見出すことで、型破りな結果を得ることにもつながると思います。
――社会が大きく変わる中で、多かれ少なかれどの企業も、手法論ではなく誰に何を提供するのかの「WHO・WHAT」を見据えた本質的なマーケティングに取り組む必要があるのだろうと思います。最後に、そのように思考を転換するためのアドバイスをいただけますか?
「人は何を買っているのか」という、価値の概念を常にイメージするといいと思います。 たとえば携帯電話のテレビCMで、通信速度が強調されることがありますが、人々が求めているのは速度そのものではなくスムーズな会話だったり、ストレスなく動画を観られたりすることですよね。買われているのは機能ではなく、価値なんです。
機能と価値の違いをつかむには、世の中のテレビCMを「何を訴えているのか」「ここに込められた価値は何か」という観点でよく見ていくことをお勧めします。機能ばかり訴求して、受け手には全然響かないものも意外と多いです。
自分が提供しているものを、価値として言葉にできるようになったら、「ではその価値を本当に求めている人は誰なのか」と考えを進めることで、WHOとWHATを行き来できるようになります。たとえばビールひとつとっても、爽快感が欲しい、リラックスしたい、大人のひとときを楽しみたいなど人によって求める価値は様々ですが、自分が提供できる価値とターゲットのマッチングを考えていくと、そうした細かい顧客ニーズの差にも気づくようになり、顧客理解も深まります。
そうすると、誰に何を提供するのかを、よりシャープに考えられるようになります。その先に、顧客に動いてもらって利益を上げ、経営に直結するマーケティングの実践があると思います。