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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

強者だけが生き残る「淘汰期」へ 米国におけるD2C最新トレンド

トレンドはオムニチャネル

 こうして調整期に入った米国のD2Cだが、明確な新しいトレンドが浮上している。それは、従来型D2Cのようにオンラインのみで販売を行うのではなく、実店舗なども併せた複数のオムニチャネルで、顧客との関係を強化することだ。

 その背景として、ソーシャルメディア(SNS)の著名インフルエンサーを使い、広告費を抑えて安上がりな「インスタ映え」などで売上を伸ばす手法が通用しなくなってきたことが挙げられる。そのようにして獲得できる初期ユーザーは熱心にブランドを支えてくれるようになるものの、多くても数十万人ほどに過ぎず、成長がそこでスローダウンしてしまう傾向があるという。

 加えて、直販方式の成功を見て参入する競合の類似商品が市場にあふれることで、D2Cのターゲット層である「デザインにうるさいミレニアル世代の顧客」でさえ混乱気味になっている。高級調理ポットやフライパンの分野を例にとると、イコールパーツ、メイド・イン、ミセン、グレートジョーンズ、キャラウェイ、アワー・プレイスなどのD2C商品がひしめき合う状態で、市場が断片化されつつある。

 一方で、これを逆手に取ったのが、「D2Cのデパート」とも言えるブランド商品のワンストップショッピングサイトであるショーフィールズ、ブレティン、ストーリー、ネイバーフッドグッズなどだ。たとえば、ファッションや家庭用品のショーフィールズでは200以上のブランドが出品し、競合が同じサイト内で互いにトラフィックを高めるような仕組みになっている。

 こうした中、ECチャンネルで伸びが止まったD2C売上を増大させるカギとして業界内で最も注目されるのが、実店舗を構えることで消費者に製品を手に取ってもらい、さらにスタッフが直接的に働きかけるオムニチャネル戦略である。コロナ禍でリアル店舗がさらに衰退する中では逆説的に思えるが、多チャンネルの内部完結性がブランドへの忠誠心を強めるのだという。

 前述のリプスマン氏は、「店舗販売に依存してきた既存ブランドがD2Cに関心を示す一方で、アイウェアブランドのスタートアップであるワービー・パーカー、マットレスのキャスパー、トラベル用品のアウェイなどが実店舗を構えるオムニチャネル戦略を採用するなど、境界がぼやけてきている」と指摘する。

 実店舗を出店したD2Cブランドは一様に、「返品率が低下した」「リピート率が高まった」と報告している。D2Cサイトと実店舗に加えて、アマゾンやショッピファイなどのECサイトに出品するブランドもあり、オムニチャネルは業界でキーワード化している。ハーバードビジネススクールのレン・シュレジンジャー教授はこうしたトレンドについて、「業界の戦略が多様化する中で、D2Cという言葉の意義そのものが失われつつある」とさえ指摘している。

浮いた中間経費を投資せよ

 急速にオムニチャネル化と多様化が進むD2Cであるが、コロナ禍の長期化で巣ごもり消費が好調を示す中、ブランドのストーリーあるいはナラティブをコントロールし、強化することは、D2C戦略の要となる。そのため、インフルエンサーによる発信などから、テレビ広告など従来型のコミュニケーションに「回帰」するブランドも多いという。また、サプライチェーン、配送や販売の内製化により、商品にまつわる「物語性」を高める手法も注目されている。

 しかし、インフルエンサーにせよテレビ広告にせよ、内製化にせよ、目的が「コミュニティの強化」「コミュニケーションの緊密化」による売上増であることは同じだ。D2Cの「D」は「直接」を意味するDなのであり、その近い関係性をどれだけ育み、活用できるかが、低成長時代の収益性を左右すると専門家たちは口を揃える。

 つまり、D2Cの魅力である「中間事業者の排除による中間マージン削減」により浮いたコストの一部を、カスタマーとの関係や品質向上に投資せよとの提言だ。マーケティング企業ライツグループの共同創業者であるマーティン・ダフィー氏は、「メーカーやブランドにとり、D2Cで節約できた中間経費を消費者との関係強化に使うことは賢明な選択だ。結局、それがコスト効果に優れているからだ」と説明する。

 中小企業向けコンサルティング企業ファンデラのメレディス・ウッド副社長も、「D2Cの先祖とも言えるメールオーダー商法は、既に15世紀イタリアのベニスで盛んであったが、顧客とコミュニケーションを育み、消費者のエクスペリエンスを向上させたことが商人の成功につながった」とする。なぜなら、競合がいない品書きの中で商品のストーリーをカスタマーに直接語りかけることで、顧客体験のコントロールを強化し、反応を蓄積・解析し、関係と信頼を深められたからだ。

 現代のD2Cの文脈においては、「顧客情報」が「データ」に置き換わり、いかに顧客が欲している商品やサービスを最も正確に特定し、オムニチャネルを駆使してそれらを届けられるかに役立てられる。Web上の一見さんをお得意様へと変化させるには、データと分析が欠かせない。

 また、メーカーやブランドには、浮いた中間経費の一部を物流や注文追跡、在庫管理に投資することが奨励されている。商品数やバリエーションが増えれば、なおさらだ。従来は中間事業者が引き受けていた役割であるが、それを疎かにすれば、欠品や配達の遅れが生じやすくなり、顧客体験が損なわれるからだ。

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ミレニアル世代を狙え

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この記事の著者

岩田 太郎(イワタ タロウ)

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、Webメディアにも進出中。昭和38年生まれ。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 09:30 https://markezine.jp/article/detail/35305

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