各領域のプロが集結する制作現場、マーケターはどうふるまう?
テレビCMの制作では、マーケター(自分自身)、クリエイティブディレクター、監督の3人がキーパーソンとして体制が構築される。全員が同じ方向を見て、顧客にとって良いCMを制作できるのが理想なものの、各領域のプロが作りたいCMを目指してしまうと、チームの目指す方向がバラバラとなり、顧客に届く、成果が生まれる良いCMになかなか到達できないこともあり得る。
実際には、クリエイティブディレクターと監督は多くの案件を共にして、チームで活動する機会が多くある。一方で、マーケターの制作チームへの関与でいうと、企画のことは分からないからと遠慮してしまうことや、主張するもののうまく伝わらないといった事態は起こっていないだろうか。その結果、マーケターの持つ事業環境の情報や、顧客像の情報がうまくCM検討に乗り切らず、チームとして目指したい顧客に届く、良いCMに到達できないこともあると思われる。

クリエイティブ制作チーム一丸となって、活発な議論を行い、同じ方向を見て良いCMを制作するために、「マーケターは次の3つを実践すべき」と奥田氏は主張する。
1. 自ら手を動かして仮説を作る
2. 忖度抜きに各プロと仮説をすり合わせる
3. チーム仮説を検証し、チーム全体の学習効率を最大化する
「先ほどお話ししたコンセプトボードの作成を始め、CMコンテにおいてもマーケター自身も作れるべきだと考えています。コンテまで作ることはハードルが高いと感じられる方もいるかもしれませんが、絵ではなく字コンテとして考えれば、マーケターのケイパでも十分可能です。これはデジタル領域で言えば、マーケター自身がリスティング広告の広告文を考えてみるのと同じで、皆さんもご経験があるのではないでしょうか」(奥田氏)
奥田氏は「明日からできる字コンテの書き方」として、実際に「スタディサプリENGLISH」の既存のCM素材を字コンテにしたものを見せてくれた。

奥田氏は続いて、企画要件の整理方法も紹介。字コンテを考える際には、セットで企画要件を定めて、要件を満たすコンテかどうかを検証していくそうだ。また、代理店からの提案コンテを、企画要件や字コンテの形式であえてトレースすることで、マーケター自身も改善仮説を考えられるようになっていくという。

「このような整理を行うことにより、マーケターが絵コンテやビデオコンテを確認したとき、『いいですね』といった単なる感想に終始するのではなく、クリエイティブディレクターや監督と同じ目線で意図や狙いから企画を考えてフィードバックやディスカッションができるようになります」(奥田氏)
顧客起点・成果起点のスタンスはマスもデジタルも共通
最後に奥田氏は、今回解説した調査ドリブンCM開発とマーケターとしてのキャリアを重ね、本セッションを以下のように締めくくった。
「本日はCM開発をテーマに手法をお伝えしてきましたが、あくまでこれはマーケティングの1つの手法です。自分にはデジタルマーケティングしか経験がない……とハードルを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、手法は違っても顧客起点や成果起点といったスタンスは同じです。これらのスタンスを持っていれば、スキルはあとから追いついてくると考えています」(奥田氏)
加えて、テレビCM開発を始めるなど、新しい挑戦をする人に向けて伝えたいメッセージとして、学習する力を信じることを挙げた。
「調査ドリブンCM開発においても学習することが非常に重要と説明してきました。私自身もそうでしたが、先輩や代理店の方よりも詳しくなるというスタンスで懐に飛び込み、学習を繰り返すことで、自らの手法を思いついたり、さらなる手法の開発に取り組むことができるようになると思います」(奥田氏)