店舗による違い、在庫管理の難しさなどが障壁に
まず小売店舗での主な課題は、「店舗ごとに適した販促物が異なる」「店舗ごとに販促物を作り分けられない」の2つが挙げられる。
立地や客層、什器のサイズ、面積やレイアウトなどが違うため、店舗によって使用するのに適した販促物は変わってくる。しかし、それに合わせて作り分けるのは難しい。各店舗の特性や什器サイズなどのデータがそろっていないことも多く、たとえデータがあったとしても、作り分けや配送のコストを考慮すると現実的ではないという。
次にメーカーの視点では、「生産数量がわからない」「在庫管理ができない」「カスタマイズ要求がある」の3つが挙げられる。
店舗に販促物を設置してもらえるかは商談しだいで決まるところがある。メーカーの本部で販促物がどれくらい必要になるかを営業から集計するのはとても時間がかかる作業のため、結果的に締め切りが早くなり、商談が間に合わず、予測で生産せざるを得ないのだ。
また、全国に営業所があるようなメーカーでは、その時々の在庫状況を正確に把握するのが難しい。そのため、別の営業所には販促物の在庫があるのに、在庫を切らしたエリアでは販促の機会を損失するということも起こってしまう。
加えてメーカーには、取引先ごとに販促物のカスタマイズをしてほしいという要望が集まることも多い。そうした声に対し、営業担当が自身で制作し対応している場合もある。ブランドチェックやコンプライアンスチェックが必要な場合は、本部担当者の作業負担にもなる。
そして物流の視点では、「受取や開梱が店舗の手間になる」「メーカーの配送コスト負担が大きい」「(配送経路が多いことで)CO2が増加する」という3つの課題がある。
SDGs時代に目指すべき販促物のあり方とは?
環境負荷や二酸化炭素排出量を減らしていこうというSDGs時代において、使用されない販促物の制作、それにともなうCO2排出は減らしていきたいところだ。松尾氏はその解決策として、次のように呼びかけた。
「単純な話ですが、必要な販促物を必要な数だけ作れる体制を整えることが有効です。また、配送を一本化することでCO2の発生を減らし、コスト削減にもつながります」(松尾氏)
水上印刷では、前述のような課題をデジタルの力で解決するサービスを、メーカー、小売店舗それぞれに対して提供している。松尾氏は、販促物を準備、梱包、配送する各フローに沿って、同社のソリューションを説明した。
販促物のDXを実現するソリューションを紹介
まず店舗ごとの違いが大きく、管理が難しいという課題を解決するために、店舗情報や販促物の情報を集約するデータベースを構築。たとえば各店舗の窓の数、レジの台数、什器のサイズ、取扱商品などの情報を蓄積しておく。
「データベースから、適した販促物のサイズやその店舗で展開予定の商品を知ることができ、本当に必要な販促物を把握・制作できるようにしています」(松尾氏)
店舗ごとに合った販促物を配送する際には、同社の「デジタルピッキングシステム」というラインを活用できる。ラインの先頭で店舗情報を読み込ませると、データベースでその店舗に必要な販促物が瞬時に割り出され、一つひとつの梱包内容をカスタマイズできる仕組みだ。
「このシステムにより、リードタイムもコストも上げることなく、店舗ごとに送付する販促物を入れ分けています」(松尾氏)
各店舗への配送に関しては、配送経路を水上印刷のロジスティクスセンターへと一本化することで、コストを削減している。同社では販促物の製造も請け負っているため、同じ場所でとりまとめて制作することで、製造そのもののコストも抑えることが可能。CO2削減と事業者の負担軽減を両立させる方法だ。なお同社では、販促物や備品の回収、再利用のための仕分けも引き受けているという。