“憧れの世界観”を醸成しながら製品を訴求
――本日はパナソニックで商品全体のデジタルプロモーションを管轄している富岡さん、調理商品の宣伝を担当している曽我さん、同社を担当されているFacebook Japanの久木田さんにお話をうかがいます。はじめにパナソニックさんのInstagram運用について教えてください。
富岡:当社では家電全般の「パナソニック公式」、キッチン家電を中心とした「Panasonic Cooking」、美容家電を中心とした「Panasonic Beauty」など複数のInstagramアカウントを運用していますが、ここ1、2年は、リーチできる層がより広くなっていると感じます。広告メニューも、より個々の目的に沿うようアップデートされていますね。
また、お客さまとコミュニケーションしていく上で大切な”コンテキスト”が見つけやすいこと、広告を見せる場所というより様々な想いを持つお客さまのいる場所に我々がコミュニケーションをしに行く感覚でアプローチできることが、他にはない特徴だと感じています。
――2月にトースターの新モデルとして発売された「オーブントースター ビストロ」のプロモーションには、Panasonic CookingのInstagramアカウント(@panasonic_cooking)を活用されたとうかがっています。このアカウントのコンセプトや主なターゲット層などをご説明ください。
曽我:Panasonic Cookingは、冷蔵庫やレンジ、炊飯器、トースターなど幅広いキッチン家電や「キッチンポケット」や「クールパントリー」などのアプリを通じて、お客様の食生活を「おいしいとうれしいで、こころまで満たしたい」というコンセプトを掲げています。その想いを商品サイトやInstagramを通じて発信しています。
Instagramのメイン投稿では、キッチン家電や家電を使ったレシピをご紹介しており、統一された世界観 や憧れ感のあるスタイリングを意識し、「ちょっと憧れで、真似してみたいキッチン空間の提案」を目指しています。
最近はIGTVやリールにも力を入れていて、実際のモデルさんご家族が、当社の冷蔵庫やレンジなどのキッチン家電を使用し調理にチャレンジする様子を自宅で撮影してもらい、「User's Documentary」としてアップしています。こちらのコンテンツは、動画を通じてご家庭の自然な様子を見せながら、キッチン家電の使い方も伝えていくものとして機能しており、憧れの世界観を統一しているレシピ投稿ではなかなか見せられない、「キッチン家電を使っておいしく、うれしくなるリアルなくらし」がご紹介できていると思います。 フォロワーは8割強が女性で、20代から50代と幅広い年齢層の方にご覧いただいています 。
――久木田さんはパナソニックさんの活用をどのように見ていらっしゃいますか。
久木田:私たちはInstagramのマーケティングプラットフォームとしての役割を「好きと欲しいをつくれる」ことと考えています。その価値の1つに「偶発的発見の創出」があります。
利用者に偶然の出会いを提供するには、Instagramの様々な機能を使って多くの接点を作ることが大切なのですが、Panasonic Cookingさんは、まさにフィード、ストーリーズ、IGTVと幅広い機能を利用され、さらに広告も使ってブランド接触機会を増やされています。
また、発見の後のエンゲージメント構築もポイントですね。プロフィールやストーリーズハイライトを中心にストックされているコンテンツからブランドの世界観が伝わりますし、コメントをしてくれている人に「いいね!」やコメントを返して、コミュニティとの関係性を築かれています。
消費者インサイトを探る段階からInstagramを活用
――では、今回実施された「オーブンオースター ビストロ」のプロモーションについて、目的と概要を教えてください。
富岡:当社はこれまでもトースターを販売してきましたが、高級トースター市場が定着してきたことを受け、満を持して発売したのが「オーブントースター ビストロ」です。今回は新モデルとしてのローンチだったのですが、各ファネルのプランニングをしていく以前の段階、消費者インサイトを探る事前調査から、Facebookさんにお手伝いいただきました。
――なぜ、キャンペーンの初期から一緒に取り組まれたのでしょうか。
富岡:Instagramにおけるお客さまの行動やトレンドにどのような傾向があるのか、プラットフォームとしてのイメージを改めて掴んでおきたかったというのがひとつ。また、当社は日本のくらしに長年寄り添ってまいりましたが、このコロナ禍でのお客様のくらしの変化を改めて理解し、キャンペーン初期から真っ新な気持ちで取り組むため、生活の中でトースターや我々の「オーブントースター ビストロ」がどう語られているのかを把握したかったというのが、もうひとつの理由です。Instagramの利用者数、利用者属性を考えると、そこで観察できるインサイトは世の中をある程度反映しているとみなしてよいと考えたのです。
久木田:具体的にはまず、当社で「オーブントースター ビストロ」に関係がありそうなInstagramにおける投稿コンテンツのキーワードを分析しました。するとたとえば「トースト」は、コロナ禍前のステイホーム期間中に投稿とエンゲージメントが増加していることがわかったり、「在宅andランチ」であれば、コロナ禍前はほぼ投稿がなかったのに、コロナ期間で増加してその後も一定のボリュームをキープしており新しい需要であることが見えてきたりしました。
富岡:これらはまったくキャッチできていなかったというより、これまで何となくそう思っていたけれど確証が得られていなかったり、つい見逃してしまっていた観点でした。データで裏付けが得られたことに、価値を感じています。
次のフェーズとしてキャンペーンのプランニングを行ったわけですが、ここでは実験的な取り組みとして、マーケティングのフレームワーク(JOBフロー)を導入しました。
コミュニケーション設計で大活躍した“JOBフロー”とは?
――マーケティングのフレームワーク(JOBフロー)とはどのようなものですか?
富岡:認知から興味喚起、商品理解、検討までのファネルの各段階で、トースターや我々の「オーブントースター ビストロ」がどう認識されているのか、逆にどう認識されたいのかを整理して、表に落とし込んだものです。
オンライン上の広告は例えるならコロナ禍前の渋谷の交差点のようなもので、すれ違うときの一瞬の接触しかありません。その接点を活かすには、お客様を理解しその認識の中にどう寄り添っていくかが重要になります。この段階で全容を整理しておくことで、各ファネルのコミュニケーション設計をスムーズに進めることができました。
富岡:JOBフローの設計においては、まずお客さまの心理、認識してほしい内容などをすべて言語化しました。その後は認識フェーズごとに、認識変容を起こすためのコミュニケーション内容、活用するコンテンツ、広告メニュー、クリエイティブ、それに基づくKPIなど、細部までFacebookさんと共に組み立てていったのです。Instagramの中にいるお客さまが、今、この瞬間どのような認識でいるのか、改めて、丁寧にお客さま目線で考えながら設計をしていったのが、今回の取り組みです。
過去データも分析しクリエイティブを磨きこむ
富岡:その後の工程では、JOBフローに沿ってクリエイティブを考えていきました。写真に添える文言についても、「シンプルな操作性」から「シンプルな操作性で、毎日使いやすい」と、認識してもらいたい要素が前面に出るよう変更したりと、一つずつの工程をJOBフローで定義した”お客様の認識”に立ち返って行っていましたね。他にはお客さまの認識に沿ってトンマナを変えるのはもちろんのこと、最適な見せ方の順番なども、Facebookさんの知見を借りながら調整しました。
曽我:表現に関しては、パナソニックとしての独自性を出すことを意識しながら、当社のFACT(搭載しているハード・ソフト技術)から実現可能なおいしさを、お客様に共感していただけるように表現するのに苦労しました。それと、先ほど申した通りPanasonic Cookingのアカウントは憧れを抱いてもらうような世界観で運用しているので、キャンペーンにおいてもそれが崩れないよう心掛けつつ、広告とオーガニックを組み合わせてどう相乗効果を出せるかを考えていました。
久木田:当社でパナソニックさんの過去のクリエイティブを分析し、どういう訴求がより有効だったのかの傾向を洗い出しました。それにより、商品で調理された料理のイメージビジュアルを先に出した上で、商品ビジュアルを出したほうが、 よりユーザーの反応が良かったといったことがわかってきました。
フルファネル配信がブランドリフトを大幅アップ
――キャンペーンの結果、どのような成果が得られたのか教えてください。
富岡:フルファネルでの配信が有用かどうか、そして各フェーズでの目的が果たせているかを検証するために、ユーザーを次の3つのグループに分けて、ブランドリフト調査を行いました。
(1)認知目的のみの広告を見た人
(2)認知目的に加えて商品理解を促す広告も見た人
(3)その2種類の広告に加えて商品検討を促す広告まですべて見た人(=フルファネルでアプローチした人)
その結果、全体を通じてフルファネルでの配信が効果的にリフトを獲得していることが明らかになりました。特に広告認知とメッセージ想起では、フルファネルでアプローチした(3)のグループが最も高く、家電メーカーの平均値が6.4ポイント増のところ、16ポイント増と大きく上回る数値となりました。
曽我:今回、「オーブントースター ビストロ」のプロモーションはInstagramを中心に展開したのですが、商品の売れ行きは前モデルに比べて2倍のペースで伸びていまして、想定以上の反応が生まれています。
――大きな成果を挙げられたのですね。振り返って、今回の成功要因はどこにあったとお考えですか。
曽我:成功の要因は、商品企画・モノづくり・営業活動など、様々なファクターがあったと思います。今回のInstagramキャンペーンに関して言いますと、週1・2回のオンラインミーティングでクリエイティブ精査や運用検討を進めていきました。フレームワークを活かして都度方向性を確認しながら進めることができ、関係者全員が常に同じ方向を向きながら軸をぶらさずに進められたため、いつも以上に精度の高いキャンペーンとなって結果にも繋がったのではないでしょうか。
富岡:緻密なプランをつくるためにミーティングの頻度も増え、その分だけ大変ではありました。ですが、これまではメディアや広告メニュー、(広告上の)ターゲティングなどの選定に時間がかかっていた中で、今回はお客さまが実際に触れる文言や画像などの精査・検証などに、よりフォーカスすることができました。これはとても大きな差です。
Facebook社が用意した「ブランディング必勝パターン」も活用
――Facebookさんは今回の取り組みのポイントはどこにあったとお考えですか。
久木田:ひとつのポイントになったと考えられるのは、Instagramでブランディングする上での必勝パターンを使ってもらったことです。これはマーケティングのフェーズにあわせて、当社が推奨する組み合わせを提案したもの。今回は「ローンチ期」のメディアプランを適用したことが、効果を後押ししたと思われます。
富岡:そうですね。Facebookさんが持っているパターンに当てはめることで、必要以上の時間を割く必要がなくなりました。その時間をよりマーケティングの本質に近いお客さま理解とクリエイティブ制作に使えた事により、プランニング時間全体の”質”が向上した結果、今回の成果を得られたのだと感じています。
――では最後に、今回のキャンペーンを通じて得られた学び、これからInstagramを用いて取り組んでいきたいことをお話ください。
富岡:改めてInstagramは、いろいろなコンテキストに沿うことができる、日常に浸透したプラットフォームだということを実感しました。単純に突発的なカンバセーションが起こる類のものではなく、お客さまの根底に恒常的にあるワクワクや憧れなどの感情の内側に触れながら、商品への認知・理解を深めていただくことができる場だな、と。今回の取り組みを、他の商品カテゴリーにも広げていきたいと思います。
また、お客さま理解についてもたくさんの示唆を得られると感じたので、広告やコミュニケーションの場としてだけでなく、お客さまのくらしに寄り添うための分析の場としてもさらに活用していきたいと考えています。
曽我:Instagramという一つの媒体の中で、フルファネルコミュニケーションに取り組んだのは初めての経験で、細かい訴求内容の検討やクリエイティブへの落とし込みなど、試行錯誤の繰り返しでした。似たようなクリエイティブでも、各フェーズにいるお客さまの心理を刺激する要素を入れることで、認識・理解を深めていくことができるということが実感できました。今後も、ここで得た知見を他の取り組みに活かしていきたいと思います。
Instagramはネット検索の前に触れるツールとしても使われるようになっているので、ビジュアルや雰囲気を伝える媒体として上手く活用しながら、オーガニックと広告の連携強化を図っていければと思っています。
久木田:今回の取り組みは、偶発的な発見を生み出しながら、多面的なストーリーテリングを通して、自分ごと化を促し、欲しいという気持ちを高めることができた好例でした。同様のコミュニケーションプランを立てるのを難しく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、抑えていただいたいポイントをパッケージ化した「必勝パターン」を参考に、ぜひ気負わずに活用いただきたいと思います。
もうひとつ、今回のKGIは店頭とWeb販売での購買だったのですが、キャンペーンのKPIとしても「購買に向けた態度変容」と、購買に近い指標を設定していました。デジタルでの指標はさまざまありますが、KGIに近いKPIを置いていくことが、ビジネス成果に寄与するためのポイントになってくるでしょう。
――本日はありがとうございました。
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