人々の価値観に寄り添い、経済と両立させる
――ADKは2018年3月に非上場化して以降、中長期的な視点での事業改革を進めておられます。まず、この動きの背景をうかがえますか?
非上場化してまでの改革を決断した背景には、大きく二つの事象があります。一つは今でいうDX(デジタルトランスフォーメーション)が各種の領域で進み、我々も本腰を入れた取り組みが急務となっていたこと。もう一つは、環境意識の高まりに代表される人々の価値観の変化です。その変化に寄り添うことと事業成果の両立にビジネスチャンスがあるので、我々が支援させていただく領域として今後注力したいと考えました。
――その流れの中で、2019年に持株会社体制へと移行し、3つの事業会社にグループを再編されました。さらに2020年には新たにパーパスと事業ビジョン策定と、精力的に改革を進められている印象です。
グループ再編を行ったのは、専門性を強化するためです。半面、多様なスペシャリストが集結して柔軟にダイナミックに協業しあっていくと、遠心力ばかり強くなる傾向もある。そこで遠心力と求心力の両方を利かせる意図で、企業活動の軸を今一度明確にすべきだと考えました。
2020年7月、我々自身の社会的存在意義として「すべての人に『歓びの体験』を。」というパーパスを打ち出し、事業ビジョンを「顧客を資本と考える顧客体験創造会社」と策定しました。人々の、そして社会全体の価値観が根底から変わりつつある今だからこそ、我々自身が立ち位置を再確認することが大切だという背景もありました。
“顧客を資本と考える”の意味
――“体験”にフォーカスしている理由は?
もはやモノやサービスを機能面で打ち出しても、消費者にはなかなか動いてもらえません。それがあることで、どのような豊かな体験を得られ、生活がどうアップデートするのか、体験をデザインして提供し続けることが大事になります。日常のあらゆる生活シーンを、価値ある「歓びの体験」になるようにリデザインし、我々の強みである独創的なアイデアと革新的なテクノロジーを融合させて、実現していく思いを込めています。
このパーパスは事業ビジョンやSDGsへの取り組みだけでなく、社員の働き方も含めて、我々のあらゆるアクションを方向付けるものさしとして位置づけています。
――事業ビジョンの“顧客を資本と考える”とは、具体的にどういう意味ですか?
顧客体験の創造、という概念はよく語られていますが、我々はそれをどう具現化するかという観点で「顧客を資本とするマネジメント」(図1)を実践しています。顧客=熱いファンを育成し、ブランドとの距離を縮めて活性化することで、見込み客へと熱量が伝播して新規獲得にもつながるというコンセプトです。
かつては購買というゴールを目指し、いわば大海に投網をしてきたわけですが、今はデジタルによって一人ひとりに合う適切なご提案が可能になるなど大きく進化しています。そうしたデータと、SNSでの個々人の情報発信も追い風に、獲得型と育成型のマーケティングを接続して循環させていきます。
育成型のマーケティングは、よりOne to Oneの対応が重要になる、D2C型のマーケティングとも言えます。D2Cは直販と捉えられがちですが、我々は「ブランドと消費者が販売の接点を含めて直接つながるマーケティングサービス」と定義し、中長期的に顧客を創り維持していく上で今後のベースになる概念だと考えています。