現場が疲弊しない、“資産型”のメールコミュニケーション
MZ:では、Marketo Engageの代表的な機能をご説明いただきながら、それをアドビでどのように使われているか教えて下さい。
虻川:はい、Marketo Engageには「エンゲージメントプログラム」という機能があります。これは、お客様のデータを基に設定したフラグに基づいて、あらかじめ設定しておいたメールコンテンツを自動で配信していくというもので、長期的かつ複雑なナーチャリングを可能にします。
たとえば、我々の場合は2週間に1回、BtoBのお客様に向けたホワイトペーパーやコンテンツブログ、ウェビナーなどのコンテンツをメールでお送りし、定期的なコミュニケーションを図っています。この時、配信する度にメールを作成し、配信設定をする必要はありません。配信する順番にコンテンツを並べておけば、BtoBのフラグにリードが追加された瞬間から、2週間に1回のペースでメールが自動的に配信されます。
松井:現場でメールを担当しているマーケターの多くは、新しいコンテンツを作成して、配信設定をして……と“消費型”のメールに追われて疲弊しているのではないかと思います。“消費型”のメールではなく、“資産型”のメールを取り入れることで、日々の業務を効率化し、コミュニケーションを最適化できるのが「エンゲージメントプログラム」です。
MAでは、なにかのセミナーに登録してもらうまでなど、2週間や1カ月で終わるような分岐型のシナリオを組まれることが多いですよね。それ以上のシナリオを組もうとすると、複雑になりすぎてしまいます。
先に、お客様の購買のタイミングはベンダー側でコントロールできるものではないと話したことにも通じますが、ひとつの施策で一気にお客様の態度変容が起こるということはなく、長期的に心地よい関係性を作ることが必要だと思っています。
2週間ごとのコミュニケーションは、そういった思想のもとで設計しているものです。コンテンツを見たり、ウェブサイトに来ていただいたりなどの行動が出てきたお客様は次のフェーズに移すようにしていて、次のフェーズでは少しレベルを変えたコンテンツが配信されるようになっています。
虻川:現場目線のコツとしては、コンテンツの作成や企画においても、エンゲージメントプログラムで設定しているように、お客様の対象のグループやフェーズごとに分けて考えると、必要なコンテンツが明確になり、シナリオとの連動がうまくいくようになります。
MZ:虻川さんは月に10本ほどウェビナーも回されていると聞いています。現場のマーケターにとって効率化は重要ですね。
虻川:我々のようなSaaS系のビジネスは競合も多く、ビジネススピードもすごく速いので、効率化できるところはどんどん効率化していかなければいけないと思います。多くの企業にとっては、ツールの金額より人件費のほうが高いはずなので、いかに自分が働かずして施策を回せるかということを追求できるツールを選ぶとよいのではないでしょうか。ウェビナーの運営については、ウェビナーツールとのシステム的な連携を行っているのに加え、Marketo Engageには施策の複製機能というものがあるので、これを活用して効率的に回しています。
具体的には、ウェビナーの集客やフォローアップに必要なメール、ランディングページなどをひとつのセットにして管理し、マイトークンと呼ばれる変数を設定しています。ウェビナーごとにタイトルや日付などのマイトークンの値を差し替えることで、コンテンツ自体に編集を加えることなく準備が完了する、というものです。
経営層も営業もIT部門も現場層も。全社をあげた導入が正しい実装の要
MZ:MAを導入したはいいものの、思っていたように使いこなせず悩んでいるという企業も多いようです。自社でも使いながら、顧客企業の導入事例もたくさん見ておられる立場から、アドバイスをいただけますか?
松井:MA導入を会社全体のできごととして捉えることがまず重要です。最初にこれが抜けていて、結局解約につながってしまうというパターンも見てきました。
マーケだけでなく経営層と営業も含めて、MA導入で実現したいことを握っておかないと、正しい実装は厳しいのではないかと思います。逆に、この認識合わせができているところがやはり成功していますね。
あとは、社内のインフラを管理しているIT部門にも協力をあおぐことが出てくるので、そういった人たちも最初から巻き込むといいと思います。
虻川:マーケティングが営業の効果に直結しているということを数字で説明できることは非常に重要です。これは現場の担当者でも話せるようにしておくべきですし、自分の日々の業務に落とし込んでおかないといけないと思っています。ですので、現場層のマーケターも全体設計に携わっておくとよいと思います。