デジタルがもたらした社会変革への影響
さらに、筆者が感銘を受けたのは「ティッピング・ポイント―いかにして『小さな変化」が『大きな変化」を生み出すか」や、「逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密」など、多数の書籍を執筆している英国生まれのカナダ人ジャーナリスト、マルコム・グラッドウェル氏のセッションだ。
彼は著書「逆転! 強敵や逆境に勝てる秘密」でも紹介されている60年代の黒人市民権運動と、2020年米国で大きな社会運動となった「Black Lives Matter」の広がりを対比しながら、デジタルがもたらした社会活動への影響について語った。
彼の解説によれば、マーティン・ルーサー・キングが中心となり社会変革をもたらした公民権運動には、「明確なリーダー・明確なイデオロギー・明確な戦略」が存在したが、Black Lives Matter運動においては「明確なリーダーも、主張すべき明確なイデオロギーも、明確な戦略もない」とした一方、即時性と重層的なアイデア、活動の広がりがあり、それらの要素がこの活動の世界的拡散につながっているという。
旧来の社会において組織や社会は階層化されており、良くも悪くも大きな社会変革やムーブメントを起こすには「密室で、中央集権的に、階層化された組織」が必要であったが、今やインターネットを活用することで「オープンネットワークで、柔軟な、権力の分散化」ができ、スピードを持って社会変革を実現するためには権力の分散化が不可欠であると彼は指摘している。
企業変革にもデジタルの活用を
このような社会変革の見立てには、明確な正解、不正解というものがないだろう。しかし、ビジネスにおいても社会生活においてもスピードが求められ、正解のない時代を生きる我々は、重厚な組織における優れた人材だけが閉鎖的な環境で意思決定を行うことの弊害に、気づき出しているように思う。
コロナワクチンをめぐるゴタゴタや、緊急事態宣言の意思決定を行う日本政府の現状を見て、皆様はどう感じただろうか。顧客も、そして我々企業人も同じ人間だ。その人間を取り巻く環境では、ますます「オープンネットワークで、柔軟な、権力の分散化」が進んでいるのではないだろうか。
筆者はよく大学生や会社の後輩に「会社と社会は、同じ漢字の組み合わせ。順番を変えて、よく見てほしい」という。そこには、日本人は「密室で、中央集権的に、階層化された組織」に依存しすぎであり、故に「会社人」の側面が強すぎることで、自らが「社会人」だと忘れがちである事実に気づいてもらいたい、という想いがある。
コロナ禍で「くらしのデジタルシフト」は一気に加速した。企業と顧客の両方にとって、インターネットは「使いこなすのが当たり前のツール」となった。その結果、社会ではますます「オープンネットワークで、柔軟な、権力の分散化」が進んでいくことだろう。DXとは、そのような社会変革のための重要ツールとなっているのだ。
今からでも遅くない。経営の中心にデジタルという武器を置く意思決定を下し、その活用で企業変革をもたらしてもらいたい。社会はもうそちらにしか進まないだろう。乗り遅れないためにもDX推進に怯んでいる暇はない。デジタル(Digital)化か 、死(Die)か? コロナ後の時代が迫る今こそ、動き出す時なのだ。