トップの強い信念のもと行われた、ローソンの組織改革
――ローソンは1,000日全員実行プロジェクトを終え、2019年3月に組織変革を実施、マーケティング戦略本部を設立されています。この狙いを教えて下さい。
かつてのローソンのマーケティングは、メディアプランニングや広告クリエイティブの制作など、プロモーションを担う役割が強かったと聞いています。CVS事業の各部署も、それぞれの役割に真摯に向き合っているのですが、商品本部は商品を開発する、営業部は商品をオーナーさんへ営業する……というように、部署の目標に特化してしまい、全体としてのまとまりが弱かったのです。
このような課題を解決すべく立ち上がったマーケティング戦略本部のミッションは、徹底的なお客様視点と自由な発想をもとに戦略を立案し、全ての関連部署を横串に束ねて、スピーディーに戦略を実行していくことです。過去の踏襲ではなく、お客様の現在の姿とファクトを中心に据え、社内が一枚岩となる協業体制の構築を目指しています。
我々が生み出したいのは、ローソンにしか作れない付加価値です。「みんなと暮らすマチを幸せにする」の理念のもと、35周年を迎えたからあげくん、10周年のマチカフェ、店内で調理した作りたてのお弁当やお惣菜をご提供するまちかど厨房など、ローソンにしかないサービスはたくさんあります。現在、「ローソンだから!が、ぞくぞく!!」のキャンペーンを展開していますが、一般消費者のお客様だけでなく、オーナーさんやクルースタッフのみなさん全員が「ローソンを選びたい」と思っていただけるような商品やサービス作りを強化しています。
組織横断でビジネスを率いるT型リーダー
――マーケターに強いリーダーシップが求められているのですね。
そうですね。お客様の価値観はますます多様化し、時代の変化も速くなっています。これまで以上にスピーディーなビジネスの展開が求められているいま、トップや経営層の強いコミットメントで関連組織をひとつにまとめ、目的の達成に向けて機敏にチャレンジをし、成功確率を高めていくことが重要です。
私はその際、「T型リーダー」としてマーケターに全体の指揮者の役割を担わせるのが最も効率的かつ効果的であると考えています。T型リーダーは、高いマーケティングの専門性を持ちながら、組織を横断してみんなを巻き込むリーダーシップも兼ね備え、ビジネスを率いていく存在です。マーケティングの定義はいろいろありますが、「お客様の課題を解決し、お客様が得られる価値を最大化するプロセスである」と捉えると、マーケティングチームはそのすべてに深く関わる唯一のチームです。お客様を深く理解して戦略を策定し、関連する組織を横断して束ね、マーケティングプロセスを推進する。これがマーケティングチームの役割であると考えています。
そして、これらを実現するには、マーケティングチームが全体の指揮者として活動できるように環境を作り、支援を続けるなど、トップや経営層の強いコミットメントが必要不可欠です。国内だけでなく、海外の企業と伍して戦っていくには、組織強化は避けて通れません。“変化のため”という大義名分がある今、組織をアップグレードする最大のチャンスが到来したと考え、行動に移すべきだと思います。
――マーケターの人材不足は多くの企業で課題となっています。組織を横断してビジネスを率いられるほどの人材を獲得する、もしくは育成するのはハードルが高そうですが、いかがでしょうか?
マーケティングチームのKPIは、売り上げや利益だけでなく、NPSのようなお客様からの支持を表す指標も含まれます。これらを達成するためのマーケティングスキルがあることは前提となりますが、T型リーダーに網羅的な知識が必要なわけではありません。
たとえば、ローソンへ転職して3年目の私も、店舗運営に関わる営業やスーパーバイザー、建設部や資源調達など、関連するすべての部署についてしっかり理解しているとは言い切れません。プロジェクトを進められているのは、核となるメンバーを小チームのリーダーに任命し、ミッションを擦り合わせ、そのリーダーに権限を委譲しているからです。定期的にリーダーと進捗を確認する打ち合わせを行っていますし、問題が起きても即座に相談できる関係性ができています。ですから、すべてのことをわかっている必要はないのです。日本人は完璧主義な方が多く、リーダーに抜擢すると「私にはとてもできません……」と言われることもありますが、仲間を信頼し、チームで取り組む意識を持っていただきたいですね。
