“データを取得できる”ことで生まれる価値
――続いて3つめの「モバイルはデータバンクとしての強みを持つ」に基づき受賞した作品を教えてください。
高宮:個人のデータを取得し、活用できるというのもモバイルの利点です。位置情報を取得し、それをどう活用するかをアウトプットした秀作2つを紹介します。
IKEAの「BUY WITH YOUR TIME」は、ドバイに2軒目のIKEAができたけれども、多くの人からみてちょっと遠い……そのことを逆手にとって、店舗に来るのにかかった時間を位置情報で把握し、かかった時間(距離)に応じて割引をするという、わかりやすいキャンペーンです。
ただ、ちょっとプロモーショナルなのと、ビジネスとしてサステナブルでもない点もあって票を落とした感があり、ブロンズで止まってしまいました。
高宮:もう1つが、シルバーを受賞したGoogleの「GOABILITY」です。
車椅子ユーザーたちに、位置情報をもとにその道に対する「Rate Difficulty(通行の難易度)」を「High(アシストなしではいけない)」、「Medium(ちょっとがんばったらいけるかも)」「Low(アシストなしでいける)」でレート付けしてもらうことで、車椅子ユーザーの最適な移動経路をジャッジしやすくするための施策です。これに準じて、グーグルマップ上でルート検索ができる交通手段として徒歩で行く、車で行く、バスで行く、自転車で行く、に加えて、車椅子で行くも追加されるそうです。
ただ、非常に素晴らしい取り組みなのですが、まだ一部地域の車椅子ユーザーの方だけに限定公開したパイロット版で、Googleの施策なのに、ググっても出てこないんです……。そこがシルバーにとどまった理由でしたが、Googleシステム上での集合知は荒らしなどのリスクもあり、それが致命傷になるコンテンツでもあるので、慎重に広げていっているのだと思います。この施策に関しては少しの悪意の介在も許されないコンテンツだと思いますので、慎重に広げていくことを、むしろ僕は好意的に捉えています。
大切なのは叶えたいことを実現できる“最適な手段”を選ぶこと
――ありがとうございます。今回は3つの視点で解説していただきましたが、最後に「今後モバイルキャンペーンを行ううえで意識すべきこと」としてアドバイスをお願いします。
高宮:「モバイルのキャンペーンを作ろう」と思わないこと、でしょうか。受賞エントリーはどれも、「モバイルのキャンペーンを作ろう」と思って作られたものではなく、「本質的に叶えたいことの“手段の最適解がモバイルだった”だけ」、というものばかりです。
テレノールの出生登録のキャンペーンは、手法の選択肢としてはポップアップの出張出生届スポットを作ることもできたし、自動販売機のようなものを定点で置いていく、登録スタッフが巡回する、などもあり得たわけじゃないですか。でもモバイルという手法だったからこそ、120万人が登録できた。
FEED PARADEも、パレードの熱量を再現しようとしたとき、拙くやろうとするなら現地にカメラを置いてライブビューにしたり、アバターを作ってリッチにしたりすることもできましたよね。でもそうなると、限られた機種を持っている人しか参加できない。でも今回の施策なら、Instagramが閲覧できれば誰でも参加できます。
モバイルは「いつも手元にある、いちばん近くにあるスクリーン」。それゆえに、共感を増幅でき、データが取れ、そのデータを活用できる。この3点を心に留めるのは重要なことかと思います。
課題や成し遂げなくてはいけないことに対し、最適な手法を選択するという視点でキャンペーンを組み立てるべきです。ARやミクスドリアリティのような新技術に飛びついてしまいがちですが、ステップバックして、本当に影響度を最大化するためにはどの手法を取るべきなのか、という視点を持ちたいですね。
