才能のソースコード「ミエリン」を増強する
ところで、スティーブ・ジョブズはユダヤ教にも傾倒していた。
一橋大学大学院経営管理研究科 特任教授 藤田 勉 著「世界の有力なIT企業の多くはなぜユダヤ系なのか(PDF)」によれば、ほとんどのIT企業がユダヤ系である。マイクロソフトのビル・ゲイツがユダヤ系、Appleのスティーブ・ジョブズがユダヤ系に始まり、Googleのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、Facebookのマーク・ザッカーバーグ、インテルのアンドリュー・グローブ、シスコシステムズのサンディ・ラーナー、ウォルト・ディズニーのロバート・アイガー、オラクルのラリー・エリクソンと、列記されている。
ちなみに、アインシュタインもカール・マルクスもフロイトも、スティーブン・スピルバーグもシェリル・サンドバーグも、そして、もちろん、国際ユダヤ資本の基礎を築いたロスチャイルド家もユダヤである。
私はイスラエルに出張したときに聖地エルサレムを訪問したことがあるのだが、そこでは、有名な「嘆きの壁」に向かって、あるいは「岩のドーム」の中で、一日中、祈りを捧げる多数のユダヤ教徒を目にした。彼らは休むことなく、何か呪文のようなものを唱えながら、ただひたすらに、祈っているのだ。
「なんのために祈っているのか? 祈る以外に何か他にやることはないのか?」 と率直に思った。そのぐらい、四六時中、目を閉じて祈っている。
だが、この祈る行為は、才能のソースコード「ミエリン」を増強する。
「才能のソースコードは、ミエリンと呼ばれる神経系の絶縁体を含む革命的な科学の発見に基づいている。<中略>野球のプレーからバッハ曲の演奏まで、人間のあらゆるスキルは小さなインパルス(神経回路を流れる電気信号)を伝える一連の神経線維から成り立っている。ミエリンの最も重要な役割は、銅線を覆うゴムの絶縁体と同じように神経線維を覆い、インパルスの放出を防いで信号をより強く、速くすることだ。バットのスイングや楽器の練習において、神経細胞が正常に発火すると、ミエリンは絶縁体で神経回路を覆い、その層が増えるたびにスキルやスピードがアップする。ミエリンの層が厚くなるほど絶縁効果は高まり、私たちの動作や思考はより速く正確になるというわけだ」
出典:『天才はディープ・プラクティスと1万時間の法則でつくられる ミエリン増強で脅威の成長率』ダニエル・コイル 著
ミエリン増強のための効果的な練習方法は、「ディープ・プラクティス」と呼ばれているが、その「ディープ・プラクティスが効果を発揮するのは、注意を払い、空腹で、集中し、必死になっている状態である」。
中村天風氏は、宗教は死んだ後のことまで考えるが、彼の教えは生きている人間のためだと言った。祈る行為と瞑想する行為は、一つに思考を集中するという点では共通する。だからだと思うが、彼の教えは、宗教と何が違うのかと問われた訳だ。
ただ、祈りと瞑想は、その目的は異なるとしても、ミエリン増強に寄与する点は同じだ。岡潔氏の言葉を借りれば、「主体である法(自分)が客体である法(まだ見えない研究対象)に関心を集め続けてやめないのである。」
祈りや瞑想、マインドフルな状態。それが、ミエリンを増強する。王貞治氏や大谷翔平選手が中村天風氏の影響を受けて、劇的に飛躍した理由もここにある。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツをはじめとした、多くのユダヤ系IT企業の成功の秘密もここにある。
今では見慣れてしまったが、王貞治氏の一本足打法がいかにユニークなものであったかは想像に難くない。大谷翔平選手の二刀流も、「そんなにプロは甘くない」「打者に専念すべきだ」「投手一本でいくべきだ」という周囲からの雑音があった。
そんな周囲の雑音にも、大谷翔平選手は揺るがなかった。「今は、周りに何を言われても何も感じません。どちらかに絞るという感覚もありません」(『不可能を可能にする 大谷翔平120の思考』大谷翔平 著)と入団当時に言い放っている。
彼は、投手と打者の両方をできるようにする、と。これは、草野球の話ではない。プロとして、そして、メジャーリーグで、投手兼打者を実現するという話だ。もちろん、今では誰も文句はあるまい。
しかし、当時においては、常人では思いつかないような未来の物語を、当然実現するものとして、大谷翔平選手は語っていた。
「当時においては、常人では思いつかないような未来の物語を、当然実現するものとして、彼らはたいへん愉快そうに語っていました。 私は、このような日常感覚を超えた発想やアイデアに導く思考を『クオンタム思考』と呼んでいるのです。」
出典:『クオンタム思考 テクノロジーとビジネスの未来に先回りする新しい思考法』村上憲郎 著