デジタル接点がブランドに「成長と利益」をもたらすか
2番目は「リアル接点がなくなっても代わりのデジタルの接点を持っているか」。こちらは単にECモールでの取り扱いや自社ECチャネルの有無だけでなく、より広い意味でのデジタルマーケティングの接点があるかどうかという視点です。また、その接点は顧客から見てどういう位置付けにあるか、も問題になります。ブランドが自社のECサイトを運営しているだけでなく、アプリを開発して展開しているケースもありますが、使用する客層が限定的だったり、ショールーミングだけに使われていたりすることもあります。ブランドから見て、売上のスケールをオンライン上でどう確保するか、またはデジタルを通して利益をどう拡大するか、ということが考えられていないと、ブランドにとって意味ある成長をもたらさない可能性も高くなります。
特に消費者向けの商品の場合、幅広い商品を扱う流通のECモールでは、その商品がカテゴリー内で上位に属していない限り、利幅の低いディスカウント施策でないとなかなか視認性を確保できないこともあって、単純に売り場をオンラインに移せば良いわけではありません。
デジタルアベイラビリティの視点でブランド資産を構築
3番目は、「デジタル接点の中でブランドが見つけやすいか」です。これはアレンバーグ・バス研究所のバイロン・シャープ教授(※2)のメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティをもじって、デジタルアベイラビリティ(デジタル空間での適用可能性)と呼ぶべき視点です。
以前欧米のファッションブランドがこぞってロゴを変更し、それぞれが同様の平易なフォントを選んでいたことを嘆く風潮がありましたが、これはデジタル空間上のロゴ・フォントの読みやすさ、見つけやすさというブランドの独自の資産をデジタル向けに再設計した結果だと言えます。
デジタル空間においては、リアル店舗と違って、ラグジュアリーブランドも廉価ブランドも、同じように小さなスクリーン上に並べられます。そこでは変に凝ったり、厚みや質感を持たせたりすることは不可能ですし、不必要に重いデータは逆にロード時間を長くし、体験を損ねてしまいます。アプリは、いわばスマートフォンにおけるデジタルアベイラビリティの典型で、わずかな四角いスペースしか表現の場がありません。スマートフォン上で目に留まりやすく、認識されやすくするために、デジタル空間に適応した独自のブランド資産が重要になってきます。
デジタルアベイラビリティのチェックポイント
- 1. デジタルスクリーン、音声プラットフォームにおいて、ブランドのロゴ、フォントが読みやすい、発音しやすい、認識しやすいか
- 2. デジタル上での接点が検索されやすいか(SEO)
- 3. デジタルでブランドが狙うターゲットに即したプラットフォームで見つけやすいか
- 4. デジタル上で果たすべきカスタマージャーニーにおいて、顧客にブランドの接点を持つ適切な方法を提供しているか(例:決済が重要な場合は、デジタルの決済プラットフォーム、Amazon Payなどのログインなど)
D2Cブランドに倣う一貫した体験設計
4番目は、「デジタル接点を起点としてもブランドの体験が優れているかどうか」。デジタルアベイラビリティによって接点が最適化されているだけでなく、これが一貫したブランド体験であることが重要です。リアルでも同様ですが、デジタルアベイラビリティについても必ずしも「すべてを網羅する」必要はありません。むしろ、自社が狙った顧客層に的確に当てはまるようなデジタル接点を選び、それを上手に組み合わせてデザインすることが必要です。そして、この領域はいわゆるD2Cブランドが最も長けています。
また、体験性という意味では、デジタルに限らずリアル接点も同様です。スマートフォン上のUXや使いやすさも大事ではありますが、デジタル起点のD2Cブランドは、リアル店舗だけでなく、顧客に届ける箱や包装、紙で印刷されたZine(雑誌風の印刷物)、パッケージや顧客対応の方法(たとえリモートでのオンライン対応でも、一人ひとりが直接にZoomを通して顧客対応するなど)も含めて、きちんと設計されていることも多く、彼らがいかに「体験性」を重視しているかがよくわかります。